文:見る「女の××は、オンナー海外ドラマ『クローザー』について(とちょこっとだけ「メジャー・クライム」について)ー」



 今年の1月2月はキツかった。本当にキツかった。詳細は省くがキツいのなんのってなかった、精神的に。その前の年の秋くらいから状況や条件は違えどもずっときっついなーという状況が続いていて、それが思いがけず延長戦に入ってしまったという感じで、甲子園と違い人生はタイブレークって訳にも行かないから、もう真っ向からそれを全部受け止めるしかなく、最後には「ふざけんなよ」くらいの気持ちになっていた。


 でもいっくら私がきっついなーと思ったとしても、これ程ではあるまい、というのが今回のドラマの主人公、ブレンダ・リー・ジョンソン本部長補佐(ラスト何話か前にその職を解かれるんだけどね)。これはきつい。まじできつい。自業自得とはいえやっぱしきつい。だからこそ名作なんだろう。やっとファイナルに当たるシーズン7までの録画を見終わった。


 でもでも、やっぱし私は、いくらこのドラマ「クローザー」が数々の賞を受賞した名作だったとしても、続編の「メジャー・クライムズ」(日本ではメジャー・クライムと単数で呼ばれているが、MCsと略すことにする)の方がなんぼも好きだ。主人公も、ブレンダよりもシャロンの方が数億倍好き。

 私的名作中の名作MCsに関しては以前も触れたことがあるので、今回はその前日譚に当たる「クローザー」について、特にシーズンの後半について、そしてMCsでブレンダに代わって主人公となるシャロン・レイダー警部について、思い切り語り倒してみようと思う。先に断っておくが、この記事ではネタバレ全開である。






 私が、「クローザー」面白いな、と心から思えたのはシーズン3か4まで。特にシーズン1と2は秀逸だと思うので、機会があったら見て頂きたい。ブレンダのパートナーとなるFBIのフリッツとの掛け合い、喧嘩もラブラブなのも、付き合ってから結婚するS3〜4辺りまでは楽しく見ていられる。


 仕事=犯人逮捕のためならどんな努力も厭わない代わりにいかなる手段も選ばず取り調べを行う通称クローザー(事件をそこで「閉じる人」という意味)であり、色白胸デカパツキンスレンダー美女で、スイーツ依存(デスクの引き出しに山のようにスイーツが入っている。お気に入りは手を汚さないようにするためか常にアルミホイルに個包装してあるチョコパイ。あれってあの状態で売ってるのかな〜?)で情緒不安定で片付けられない女(A4サイズすっぽりの黒のでかバッグの中はいつもめちゃくちゃなのに何故か引っ張り出してくる衣服にシワがない笑)である敏腕刑事ブレンダ。





 彼女の腹心の部下ガブリエル刑事巡査部長は、有能で冷静で真面目で紳士的な若い黒人のイケメンだけど、ブレンダだけでなく色んな意味で全シーズンに渡り女難の相が出ていると言っても過言ではない(女性はブレンダ以外では2人しか名前出てこないけど)。

 最初の恋人は同僚(ここが間違ってるよな笑)のアイリーンだったが最終的には喧嘩が絶えず、2人同時に異動願を出すも通ったのはアイリーンの方。ガブはお咎めなし。そうなると、同僚のオジサン刑事達(プロベンザ、フリン、タオ、サンチェスの5人。これに若い技術技師のバズが入って重犯課6人衆)はガブに対して快くは思わないようになる。特にサンチェスはアイリーンにちょっかいを出していたシーンがあったので、当然といえば当然で。まあこのエピソードはS4の終わり〜S5の頭辺りに出てきただけなんだけど、後述の出来事が起こった時に、サンチェスがガブを「許す」と言わなかったのも、この辺からなんとなく引っ張られていた気がしないでもない。





 ガブの元カノ、アイリーン・ダニエルズ刑事という女性キャラが姿を消した代わりにS5から登場するのが、シャロン・レイダー警部である。S5通して、ブレンダにとっても、彼女の所属する重大犯罪課にとっても、内務調査課のシャロンは目の上のたんこぶでしかない。それも特大級の。

 常にギリギリ、というかアウトもセーフにして言い包めようとする捜査と取り調べを行うブレンダにとって、内務調査が仕事のシャロンは、いつも自分の捜査の邪魔をする悪女にしか映らない(プロベンザ=プロ爺に至ってはホワイトボードに描かれた絵にわざわざ魔女の帽子を描き足してシャロンを揶揄する)。落ち着いた声で何にも動揺することもなく淡々と任務をこなし、常にカットインしてくるように見えるシャロンに対してブレンダはしょっちゅう怒り狂っている(私はこのシャロンの声が、ご本人も吹替もどちらも大大大好きである。声優の小林美奈さま。深い海のように素晴らしい声)。





 S5では数回顔を出しただけで、シャロンの存在はそんなに大きなものではないが、ラストに印象的に登場する。ブレンダとシャロンで向き合って、互いに互いが「嫌い」であるとぎこちなく笑いながら認め合うシーンはなかなか面白い。そしてS6。ここでシャロンは、自分より若いけど地位が上のブレンダに、本部長候補として名乗りを挙げるよう勧める。全ての女性職員の中で一番地位が高いブレンダを見て、心強く思う若い女性達は多いだろうと。これは前シーズンでのブレンダの仕事に対しての有能さをシャロンが認めたことに他ならない。


 まあ、そうじゃないとドラマ進まないしね笑、その辺は解るんだけど、でもこの2人、最初の出会いの時、シャロンに捜査を邪魔されそうになったブレンダは、自分に敬語を使うようシャロンに言い放ち、「上司に向かってそういう言い方は」的な、言ってみればムッチャクチャ肝の小さいことを言う訳よ。私が最初にブレンダというキャラに嫌気がさしたのはまさにココ。でもその後すかざすシャロンが「自分の地位を振りかざすような人は」とやり返しているのでまあいいかと思って見過ごした。


 そんな感想を持っていたので、S6でシャロンがブレンダに選挙に出ろというのはどうなの?と思わなくもなかったんだけど、シャロンもブレンダがどうしてこんな態度に出るのかが解っているのよね。

 男しかいないような職場で女が一本立ちしてやっていくには、この位でないと上には昇れない。シャロンも自身が「誰も行きたがらないところでなら早く出世するんじゃないか」という思惑で内務調査課を希望したと告白するし、そこでシャロンがブレンダに「あなたも上司と寝た。そうでしょう?でもいんです、それだって出来る人は限られる」というのに対し、ブレンダも反論しない。そういうところを見ると、1回の失言で全てが判断されると取るのは些か尚早かもしれない。





 ところでこの「上司と寝た」発言だが、ブレンダの元不倫相手が、ドラマで上司となるポープ副本部長である(彼女は元不倫相手であるポープに請われてロス市警に来たという設定だ)。仕事が出来て少し狡くて肝心なところではいつも味方してくれる(とブレンダは思い込んでいる)という、元恋人とはいえ捨て難い魅力的な相手であるが故に、ブレンダは、時には自身の夫のフリッツよりもポープを頼っていると思われても仕方がないような行動をとる。


 だけど、不倫相手は所詮、不倫相手。ポープにとって一番大事なのは、ブレンダの立場より当然、次期本部長(になれる筈)としての自分の立場である。それが脅かされるとなったら何よりも先に阻止しようと動く。だから、これから述べることになるあることが済んだ後も、ブレンダの行動を見張るように、引いては終わった筈のあることに関する「裁判」の後始末をしろと、シャロンに頼むのである。




 その時シャロンがポープにいい顔をしたかというと、そうではない。S5までは互いに相容れないところも多かったが、S6の本部長選や幾つかの事件を経るうちに、シャロンはブレンダの辣腕さだけでなく(ここからは私の憶測に過ぎないのだが)人間的な脆さや情の深さにも気づくことになる(気性が激しいのはある意味では情が深いからと言えなくもない)。

 同時に、ブレンダが率いている重大犯罪課の面々の優秀さにも当然気付いているだろう。だからシャロンはポープに、ブレンダに「裁判」についての一件はまだ終わってないとポープ自ら伝えてはどうかと促すのだが、ポープは頷かない。シャロンは、ブレンダの「裁判」に関する調査ー重大犯罪課全員との面談ーを、ポープからの指示であることを黙ったままするしかない。ブレンダに更に疎まれることを覚悟して。


 こんな裏事情があっても、ブレンダは最後の寸前までポープを信じ切っている。私が言えば何でも言うことを聞いてくれると信じて疑わない。

 甘い。甘過ぎる。この辺で、見ている私の気持ちはもう爆発しそうである。ブレンダ、どこが優秀だよ、愚かにも程があんだろ、と。


 完璧な人はいない。みんなどこか偏っているし、いつも公平ではいられない。聖人君子がいないのも解っている。にしても、だ。ブレンダの、どうしても長所よりも短所に目が行ってしまう。その一つは、自分に対してとんでもなく甘いのはいいとしても、他人に対して、時にあり得ないくらい辛く見えるから。この私の持った感想が、最後の最後に確信に変わってしまったのは、主人公には残念としか言いようがないが、ドラマとしては秀逸を極めている。






 ここで、さっきから引っ張っている「裁判」の話に入る。

 ざっくり言えば、ある事件に関して、ブレンダがしたある行動によって、彼女だけでなく市警全体が訴えられるという裁判が起こり、結果的に相手側の弁護士ゴールドマンが極悪だったということもあって彼女は無罪放免となるのだが、そのことで様々なことが明るみに出るのである。ってこれじゃ解んないのでちゃんと書く。


 ある事件とは、ギャングの一員であったタレル・ベイラーという若い男が絡んだ殺人事件のことである。

 クラブの前で殺された真面目な海軍の若者の事件を追っていくと、彼には兄弟がおり、その兄弟の方、ギャングの一員だった方と勘違いされて銃撃されたということが解る。何故そのギャングが標的になったかというと、敵対している側のギャングのシマにあったある商店の店主とその幼い孫が惨殺された、その犯人だったがための報復だったことが判明する。実はその犯人こそが、先程出てきた海軍の若者の兄弟、タレル・ベイラーだった。タレルは店の商品の盗みが見つかったというだけで2人を無惨に殺していたにもかかわらず、取調室で自分の兄弟を撃った相手を売る代わりに自分をお咎めなしにしろと取引を持ちかけて、けろっとして自分だけ生き延びようとしていたのである。





 最終的に海軍殺しの犯人が見つかったのはタレルとの取引のお陰であり、警察は苦々しくも、タレルを罪には問えず、彼を解放することを決める。

 とはいえ、タレルの証言で捕まった相手方のギャングは電話を自由にかけることがブレンダによって許されており、全て終わった後でタレルを自宅まで護送した際、降りてくるタレルを待ち構え、警察車両を囲むようにして、敵のギャング達が次々と現れ始める。異様な雰囲気の中、これから何が起ころうとしているかは、その場にいる者達だけでなく、テレビを見ている私達にも無理なく伝われレベルである。


 ここで、車を運転していた、ブレンダの腹心の部下ガブリエルが、後部座席にいたブレンダを振り返って不安そうに訊ねる。

「本当に、このまま帰していいんですか」

それに対し、ブレンダは冷たく「早く車を出して」とだけ返事をする。

 車から降りたタレルにじりじりとにじり寄るギャング達。総勢20人近くはいたろうか。この話はここで終わる。


 そのタレルが再度出てくるのが、ファイナルシーズンとなるS7の第1話だ。出てくるとは言っても名前だけである。タレルはその後(予想通り)ギャング達に無惨にも撲殺されるのだが、そのことで、証言者に対して当然するべき保護を怠ったとしてタレルの身内から、ロサンゼルス市、ロス市警及びブレンダが訴えられるのである。




 シャロンの調査によって、ブレンダの再三の主張通り、車から降りた段階で保護責任はなくなるということが法的に認められることが判明するも、シャロンは、弁護士をつける必要などないと頑なに拒み続けるブレンダを表へ連れ出し、血の跡がベッタリと残るタレルの自宅へ赴き、民事で訴えられたらどうするのかと静かに詰め寄る。弁護士をつけることに同意するブレンダ。


 この弁護士ギャビン・ベイカーがまた法外な値段だけど有能な楽しい人で笑、何話かは割と気軽に見られるシーンが多いのだけど、この法外な弁護士費用をブレンダが出し渋り、ポープに泣きつくも(この辺がすんごく嫌だった笑。結局彼女は女の武器を使いたい放題使ってる訳で。それでも勝てるんならそれでいいじゃんって考え方もあるだろうけど。だけど都合の悪いことはFBIの夫に黙っている癖に、困ると泣きついてFBIを呼ぶのよ。ストーリー上の演出もあるだろうけど、仮にそうだったとしてもイマイチ面白いとは思えなかった)当然いいとは言われず。でも何故か雇えることになってしまう。それは実は裏で、夫のフリッツが、親から相続した自身の持ち金から全額支払ってくれたからであるが、そのことにブレンダは全く気づかない、気付かずに、ポープに抱きついてお礼なんか言ってる。

 最終的に、この楽しい弁護士ギャビンが、フリッツに固く口止めされていたにもかかわらず、ブレンダのアホぶりに呆れて上手に暴露してしまうんだけどね。




 S7の真ん中くらいで、裁判は最後には和解に持ち込まれる。ブレンダは当然猛反対する。和解してしまったら自分の正当性が証明されないからだ。だがこれ以上の条件はないとポープに説き伏せられる。それだけではなく、不名誉にも自身の名前を冠されたジョンソン・ルールというのが出来てしまい(事件解決の過程で最初から検察を閉め出さずに介入させるというもの。これはMCsでも、いい面でも出てくるし困った面でも出てきたりするけど、概ねいい面で出てくることとなるので結果オーライではある)、ブレンダにとっては心理的に敗訴に近い状況に陥る。


 それでもずっとシャロンはブレンダの傍についていて、先程言ったようにポープに言われたというのもあり、今回の裁判で何故相手方のゴールドマン悪徳弁護士に市警側の情報が漏れていたのか、つまり密告者がいたとするとそれは誰か、突き止めるとこととなる。今回の一件で酷く傷ついたブレンダを庇いつつ、犯人への協力者探しを続けるシャロン。

 女の敵は女、とは昔の言葉。

 女の敵は女なら、女の味方も女しかいない。





 S7の後半、重大犯罪課が犯人を追いかけるところへシャロンが同行するのだが、そこでドンパチが始まるかと思いきや、シャロンが颯爽とダミーのライフルを手に取り「私が」と言うと犯人が「やってみろよ、おばさん」と言い放つか放たないかのうちにシャロンのダミーライフルからぶっ放されたダミー弾丸が相手の眉間に命中!「凄いな」と感心するタオ刑事とフリン警部補に「惜しいわ。本物だったら一発で仕留めたのに」と(多分ジョークで)呟く、という名シーンあり。

 こんな風に、「クローザー」のファイナルであるS7は半分はもう既に、スピンオフドラマ「メジャー・クライムズ」を引っ張るシャロン・レイダーが主人公なのである。




 裁判が終わり、ブレンダとシャロンが同じ事件を一緒に捜査したり(この回は凄く楽しかった。ゲストの声優さんもすっごく上手だったし。誰かなあ〜⁈山路さんにも聞こえたけど、あんなふざけた役の吹替するのかな〜?w プロ爺の最初の奥さんが出て来たりするのもよかった。ちなみにプロ爺は離婚歴4回、恋人募集中w)する中で、ブレンダの両親が再び故郷からやって来て現れる。


 彼女の両親は各シーズン中必ず1回以上は登場する名物脇役、と言っては失礼な程素晴らしい親である。特に母親。この、やり手で仕事はできるけれど、時に尊大で相手を見下し嘘もつき放題で目的のためなら非情なくらい手段を選ばない、と言われる娘に対して、これ程愛情を注げる人はいないだろうと思うくらいの愛情をかけ、でも嗜めるべきところはやんわりと嗜め、娘の立場を尊重し、彼女に迷惑がかからないタイミングギリギリでいつも帰っていく。もう、神って絶対こういう人に宿ってるんだなっていう、お母さんなのである。




 一番好きだったのはS6のラスト。長い海ドラには必ずクリスマスのシーンが盛り込まれるのだが、S6の最後もそうで、クリスマスに事件が起こってしまい、署内にクリスマスの飾り付けを持ち込んで祝おうと決めた、今やすっかりメンバーとも馴染みになったブレンダの両親。そこで、ブレンダから「ええと、あの、友達の、シャロン、そう、友達」と思いっきりぎこちなく紹介された、家族(息子と娘。弁護士の旦那とは問題があって20年の「別居」なのでノーカウント)が待つスキー場に行くことが出来なくなてしまったシャロンに、ブレンダの母が、


「ブレンダのお友達のシャロンよね?びっくりだわ。ブレンダにお友達ができたのなんて、ハイスクールの時以来だもの。ねえ、よかったら、私達と一緒にここでクリスマスをお祝いしましょうよ。もしお手伝いをしてくれたら、ブレンダの昔の、とっておきのお話を聞かせてあげるから」


と声をかけるのだ。「『ブレンダのお友達のシャロン』!」と繰り返し、ちょっとウキウキしながらついていくシャロン。

 こんなことがあったら、そら多少気に入らないところはあっても、このお母さんに免じて、ブレンダとうまく付き合おうって気にもなるよね。




 S7では、病が発覚したブレンダの父親の話が出てくるのだが、手術を経ても大して回復しない父を酷く心配するブレンダに対して「私は覚悟ができてるの。あの頑固に付き合う方が大変」と返す母親。そして何度か「ねえブレンダ、ちょっと話したいことがあるんだけど」と持ちかけるのだが、相変わらず捜査があるからと言って立ち止まらないブレンダ。そして「1分で済むのよ」と言われても「明日ゆっくり聴くから」とにっこり笑って家を出てしまう。よくある話ではある。

 事件が解決し、朝帰宅すると気分が回復したと言ってパンケーキを焼いてくれている父親を見る。安心したように夫フリッツと束の間の幸せを味わい、母を起こそうとコーヒーカップを持って客間の寝室へ行く。

 そこでブレンダは、最愛の母がベッドの中で既に息を引き取っていることに気づく。叫ぶブレンダ。暗転。


 ここがクライマックスだと思うでしょう?

 いやいや、このドラマ、本番はまだ先。





 葬儀で取ったはずの長い休暇を返上して署に戻り、事件現場へ向かおうとするブレンダに、ポープは、状況から判断して、彼女の本部長補佐の肩書を外すと告げる。母をなくし、仕事で降格され、主人公なのにコテンパンである。が、更にブレンダは追い込まれる。皆さん、ここからですよここから。


 その時、ポープから、シャロンが「密告者」を見つけたらしいことを聞くブレンダ。誰なのかと思っていると、シャロンが迎えに来たのは、何を隠そうブレンダの腹心の部下、ガブリエル。

 ガブ自身が密告者ではない。シャロンが見つけた密告者は、ガブの付き合って1年になる恋人、アン。アンは弁護士事務所のインターンをしており、そこでゴールドマンと知り合った。下劣なゴールドマンからロースクールの費用6万ドルを肩代わりする見返りに、ガブをスパイするよう言われていたのだ。ガブの人柄に絆され、最後には彼を愛してしまったというアンだが、時既に遅し。怒り狂うガブリエル。


 軽々しく口を滑らせたのがいけない、と言うことは簡単だ。だけどプロ爺が言うように、恋人や家族の誰にも絶対何一つ仕事の話をしないなんてことほぼ不可能だ。付き合いが長くなればなる程。それが人情ってもんだろう。





 シャロンに、自分からブレンダにも課のみんなにも説明させて欲しいというガブ。その気持ちをお汲み取りください、とブレンダに告げるシャロン。しかし彼女の怒りは治らない。ガブを怒鳴りつけるブレンダ。何か疑問を持ったのなら、何故そこで言わなかったのかと。すると堰を切ったようにガブリエルが話し出す。



「待って下さい。言いましたよ!あなたがタレル・ベイラーを家の前で下ろして、タダでは済まないと知りながら、ギャング達の中に置き去りにした時、僕は聞いたんです。『ほんとにいいんですか』って!そしたら『車を出せ』と、あなたは言いましたよね!」

「あの時のことは鮮明に覚えてる。あなたは不安そうには見えなかった!」

「ちょ、待ってくださいっ!僕が不安そうじゃなかったなんて、よく言えますね!覚えてるでしょう⁈僕がどんな様子だったか!何なら(一緒に車に乗っていた)サンチェスにも聞きましょうか⁈僕には、あれでいいかどうか、自信がなかったんです!今も、まだ解らない!チーフは⁈」


 

 終わったはずの事件と裁判が、最後までブレンダを悩ませることとなる。最後には、ガブに同意し詫びるブレンダ。


「タレルの一件は、全部、全部私の責任よ。本当に、本当にごめんなさい」


 そして、フリンの言に従って辞職しようとするガブを半ば強引に止める。当然フリンは面白くなく、ラスト1話で「こんなヤツと一緒に仕事出来るかよ!」とその気持ちを爆発させるシーンがある。

 ちなみにフリンさん、最初はそうでもないように見えたが誰よりも先にシャロンを気に入っているように思えるシーンが見られ、ああMCsの足がかりはもうこの辺から始まってるのかなとちょっと微笑ましかったりもした。





 ラスト1話は勿論、ブレンダの、そして今後シャロンの最大にして最悪の敵となる極悪非道なレイプ魔でありシリアルキラーでもあるフィリップ・ストローとの決戦になるのだが、ストローの話はどうでもよくて笑、ここでは、そのストローが最後にブレンダに撃たれる(生きてるけどね)原因となった、目撃者である16歳の少年で、MCsでの重要な登場人物となるラスティ・ベックについて話す。



 

 ラスティは15歳の時、自分より他の男を取ったジャンキーの母親に捨てられた少年で、今は一人で生きるために18歳と偽りながらストリートで男娼になっている。

 ある日、取った客と鬱蒼とした場所へ行き、そこで服を脱いでいる最中にストローの死体遺棄の犯行現場に遭遇する。暗がりとはいえストローの姿と顔を見て、しかもストローが身につけていた黒い目出し帽を偶然手に入れてしまう。警察に通報したため発見され、保護されるが、ストローのことは「母さんを見つけてくれたら話す」の一点張り。


「俺はね、悪党の話を聞いて稼いでる」

「何度言えば解るんだよ!母さんはいないんだ!」


 ブレンダの一瞬ハッとしたような顔。ラスティの話を自分にまるっきり置き換えているのが解る。


「俺から話が聞きたかったら、母さんを探してくれよ!それが条件だ!」


 仕方なくラスティの写真を加工し、マスコミに流す(この時点でブレンダがラスティがストローの標的になるという、彼の身の安全などまるで考えていないことがこちらにも解る。またこの写真を撮る時、シャロンがドア越しに覗いていて、ラスティを恐らく案じているのが見て取れる)ことでまんまとストローを誘き寄せることに成功するが、さすがは弁護士ストロー、ブレンダは逆に狡賢いストローに手酷い反撃をくらい、最後には「君が私をずっと見ていたように、私もずっと君を見ていたよ。お気の毒だったね、お母さんが死んで」とダメ押しの一撃を放たれる。


 ブレンダは狂ったようにストローに襲いかかり、爪を立ててストローの血で手を真っ赤に染める。皆に制止され、ストローが出て行った後、自分はこれで定職になるだろうと告げ、そのまま検死室のドクター・モラレスの元へ直行する。ラスティと検事のアンドレアを従えて。そして自分の手からストローの血液を採取し、DNAを取り出して、ラスティが拾った黒い帽子に仕込むようドクターを説得する。

 検死室の外で、地方検事局の上司の椅子が空いているとブレンダに伝えるアンドレア。少し考えさせて、と言いつつも、「もし行くなら、部下を一人連れていってもいいかしら」とガブリエルのことを気遣うブレンダ。




 ブレンダはその後ラスティを自宅に連れて行き、食事を与え、なんとかしてストローの情報を聞き出そうとする。ブレンダにとってそれは職務であり、命を削ってでも惜しいとは思わない使命であり、つまりは彼女自身である。しかしながらラスティは反論する。以下は2人の会話である。



「ねえラスティ、助けてほしい」

「いや、それは俺のセリフ」

「オフィスで見たわよね?埋められていた女の人達の写真。あなたは現場も見ている。埋めた男の顔も。彼はあなたを…」

「ねえ、また帽子の話かよ。言っただろ?母さんを見つけてくれたら何もかも全部話すって!」

「お母さんなら今も探してる。でもそう簡単には見つからないの」

「ちょっと待って!何も解ってない。先に話せば切り札がなくなるだろ?」

「…」

どうしても、どうしても!母さんに会いたい!会っていい子になるって言わなきゃ!母さんの気持ちを考えるって!俺は変われるってとこを見せなきゃならないんだよ!お願い…」

「ラスティ。お母さんがいなくなったのはあなたのせいじゃない。お母さんの過ちよ」

「何も知らない癖に」

「知ってる。よく知ってるわ。悪党でお金を稼いでいてもあなたはいい子」

「そこなんだよ。俺は、悪党で、稼いでるだけじゃない。俺が…この俺、自身が、悪党になりかけてるんだ。これ以上は続けられない。絶対に!

「…」

「頼むから助けて…お願い」

「助けるわ。必ず助ける。…でも、先に亡くなった人達のことを…」

「死人だろ⁈ねえ解らない⁈みんな死んでるの!死んだら助けられないんだよ!それとも俺のことなんかどうでもいい⁈他の大人みたいに利用しただけかよ!」

「…そうじゃないわ。そんなことな…」

「ほんとに⁈」

「…」

「でも俺個人のことは何も聞いてこないよねえ⁈例えば…そうだ、俺が16歳の誕生日も1人ぽっちで、男の相手をして過ごすしかなかったってこととか。俺6年の時、チェスで3回優勝した。中1で2回。いや、あんたは人が死んでからじゃないと気にも止めないよな

「殺人事件の捜査は仕事…」

もう違う!仕事じゃない!クビになるんだろ⁈



 どうだ。凄いだろう笑、まさにココこそが、このドラマのクライマックスである。こんなドラマある?主人公が最後の最後に、全否定されるなんて。

 私のように主人公に反感を持っていた視聴者が多かったかは知らないが、このラスティの台詞で、全部、落とすべき所へ落ちた感じがして実に爽快ではあった。そうだ!その通りだ!と叫びながら見てしまったくらいだ。こんなカタルシスがあるとはねえw 偉大なドラマだ。





 ブレンダはやり過ぎたのだ。タレル・ベイラーの一件だけではなく、その前後辺りからずっと、相当トゥーマッチだったのである。その度にいろんな脇役から嫌味を言われたりそれとなく暗示されたりしてきたのに、一度として反省してこなかった。夫のフリッツに言われた時でさえ、その時は省みても、その後生かされたとは思えない。元の木阿弥というか。

 人間だから、そういうことはある。私だって片腹痛いと思って見たり語ったりしている。でも、いくらドラマでも、ブレンダ、こんなんで、この仕事していいのかなっては思う訳である。


 ラスティが最終回に登場したのは、彼はブレンダの鏡だからだろう。ブレンダ自身が(おそらくどこかでは)気づいていながらもずっと蓋をしてきた思い、というか疑念を、ラスティは全て言葉にして、表に引っ張り出してしまった。上の会話文を読んで頂ければお解りかと思う。ここで初めてブレンダは、このままではいけないと気づく。このままでは、悪魔に魂まで売り渡してしまうかもしれない、と思ったかどうかは解らないが。





 この会話の後堪らずにバスルームに駆け込むブレンダは、開いているはずのない窓が開いていることに気づき、ストローが侵入したことが解る。

「ラスティの言う通りだ。ブレンダ、君は死人じゃないと気にもかけない。だから君の望み通りにしてやろう」

そう言ってラスティの喉にナイフを突きつけるストロー。その後の格闘の末、ブレンダはストローへ大事な黒いバッグ越しに銃口を向けて放つも、命を奪うまではせず、警察に突き出すことに決める(つまり宿敵ストローは死なず。この人結局MCsのラストのラストまで話引っ張りますからね笑)。


 ストローを逮捕することは出来たが、母親も仕事も、自信も失ったブレンダは、後日ポープへの手紙で重大犯罪課をシャロンに託し、去ることにする。重大犯罪課の面々から餞別に渡されたのは、ダメになってしまったのと同じ、黒い大きなバッグ。中にはたくさんの愛情という名のチョコパイが詰まって。




 何を犠牲にしても仕事を第一に考えてきたブレンダが去るとなると、どういう結末にしなければならないか、ということから考えたかは解らないが、プロデューサーの中に、ブレンダを演じたキーラ・セジウィックの名があるところからも、この結末は練られに練られたものだったと思われる。


 そして、今度はシャロン・レイダー警部に託された重大犯罪課の新しいドラマシリーズのタイトル「メジャー・クライムズ」とはまさに「重大犯罪課」という意味で、これからは一人の主人公を中心に追うのではなくて、重犯課全員を描くのだということが伺える。







 ブレンダが主人公なら、彼女が率いる重大犯罪課は彼女の右腕=「No.2」の位置である。それが全シーズンの後半からは、シャロン・レイダーがNo.2となって話を引っ張っていった。そして新しいシーズンでは、このNo.2同士がタッグを組んでいくことになる。

 私は昔から「No.1よりNo.2派」であり、それがバンドであろうと漫画であろうと、いかなるシチュエーションでも主人公の脇にいる存在に目を奪われてきた。No.1よりNo.2の方が、味があり、弱さがあり、不完全である。たまに不完全な主人公に対しNo.2が完全無欠の存在として登場することはあるが、それは主人公に対するアンチテーゼであるという意味で、既にそのストーリーにおいては不完全なのである。そこに魅力がある。だからクローザーよりもMCsの方が好きなのかもしれない。









 大好きなドラマの前日譚についてまとめるだけの筈が、12,000字も書いてやんの笑。今更古いドラマのまとめや感想など、どこにもニーズなどないと思われるが、久々のブログ更新だし、長くてもいいかと思って思い切り書いた。

 ここまでお読み頂き感謝。そしてもしもチャンスがあったら、是非とも「メジャー・クライムズ」からでいいので笑、ご覧になって頂きたく思う。