文:「トワニワカクはいられないけどーdoa LIVE "open_door" 2022 -Winter Camp-大阪公演【1st stage】(配信にて)」




  ぶっちゃけた話をすると、俄に忙しくなり始めたスケジュールのせいもあり、これチケット買ってもまともに見られるのかなあと半信半疑だったのだが、やっぱし買っちゃうとそりゃあ無理をしてでも見ようという気になる訳で。

 そんな、イマイチこう、「前のめりで乗り気!」な感じじゃないままに見始まった、というか聞き始まったdoaの配信ライブだが、これが始まったら夢中になってしまって。



 もうほんと、ぶっちゃけついでに言うと、昨年の夏に配信ライブがあった時には、ある意味コンセプトアルバムが元になっていたライブだったということもあり、「CAMPだーかーらー♪」のノリになかなか入り込みきれないまま終わってしまったという感じだったのだけど、その後徳ちゃんのソロ、大田さんのソロ、それぞれに参加したSensationの車谷くん(@徳ちゃん)、大楠くんと麻井くん(@大田さん)の勇姿を見て、段々と楽しくなってきたというか、楽しみ方が解ってきたというか(結局Sensationなのかい、ってのはまあ置いといて)。



 その、入りきれない頃に見た時のブログにも書いたけど、コーラスワークの美しさは本気でアルフィーのレベルだよね。本気で褒めてるんだからね。実に厚みのある美しい声の重なりは何度でも繰り返して聞きたくなる程。徳ちゃんの作るメロディが素晴らしいんだろうと思う。よく練られた、人の心に入り込みやすいコード進行。そこに重なる吉本くんの声がまたいい。聞きやすい声だよねえ。尖ってもないし、冷たくもない。彼のキャラと合ってる声。



 異業種混合パーティみたいなのが一時流行ったというか、よく話題に上ったことがあったよね。職業の違うもの同士が集まって刺激を受け合うとか、まあ場合によってはテイのいい合コンみたいなこともあったんだろうけどさ。


 吉本くんの存在ってそこだと思うんだよね。あ、いや合コンの方じゃなくて笑。リードボーカルがどっぷりと音楽業界だけに浸かりきっている訳じゃないところに、このバンドの風通しの良さを感じる。ボーカリストとレーシングドライバーの二足の草鞋、というところに注目が集まるんだろうけど、なんというか、見方を変えれば視野が広いというか。違う世界を知ってるって絶対いいことだと思うんだよね。私のいる業界でも、一度普通の会社勤めをしてから入ってくる人には、全部ではないけれど、有能な人が多いような気がする。


 なもんで、その風通しの良さがMCなんかにも現れていて、一番下の弟的存在の吉本くんが、自由に楽しそうに、リーダーの徳ちゃんとか大田さんとかと言葉を交わすシーンは見ていてこっちまで本当に明るい気分になる。


 トーク上手だよね吉本くん。でもさ、お餅をバターで焼いてカリリとさせて塩を振るって、美味しいに決まってるけど絶対体重過多になるメニューだよねw





 ハーモニーが身上のバンドのせいか、“Sensationのオシャレ番長”こと大楠くん(勝手に命名。いつも素敵なお洋服着ているので)のキーボードの音と相性が実にいい。阿部ちゃんのギターの音よりもどちらかというと鍵盤の方が立ち上がって聞こえくることが多くて、それが今回はとてもよかったと思う。「DA Li La」で、ステージに向かって横向きの大楠くんがドラムの鶴屋さんと向き合ってノリノリでリズム取ってるのが実に楽しげだった。サポートメンバーの挨拶は今回なかったのだけど(配信では、なのかな)、仲の良さそうなのがよく解るシーン。



 で、我が心の兄!と慕いし大田さんがメインの「季節が変わる頃またここで会おう」。Bandwagonの時にも歌ってくれましたが、いやあもう一回聞けると思ってなくて本当に嬉しかった。嬉しいなあと思いながらまた泣いていた。ソロの時とは違って、徳ちゃんと吉本くんのコーラスが入って、より温かみが増した仕上がりになっていた。


 かと思えば徳ちゃんが詞を書いた “Feel Good”の、男子高校生または男子大学生の頭の中を思いっきり覗いたような、ちょっと猥雑なところもうまく歌うのよね。


 これってさあ、 この歌の後きっとThe Whoの「サマータイム・ブルース」に繋がるんだろうなあって勝手に思ってた。ヤリたくて(失礼w)仕方ないのに「あんたはまだまだ子供だよ」って言われて結局「Ain’t no cure for the summertime blues(どうすりゃいいのさサマータイムブルース)」って。


 大田さん、MCで「白と黒の猫が飼いたい」と言った時、この人は本当に私の心の兄なんだなと実感しました笑。猫好きだなんて。wktkしてしまう。「だめ。ダメなもんはダメ」面白かったw



 選曲も良かったと思う。DESIRE、Go Ahead、ゼロの気持ち、Bring Me Back My Freedom(失礼を承知で言わせて頂くが、吉本くん、本当に英語の発音がいいよね。LockとRockもちゃんと区別ついていたし。聞いてて解ったよ。これは凄い) 、Window、そして新曲のWild Beastあたりが好きかな。え?偏ってるって?仕方ないじゃないですか好みですからw



 徳ちゃんがギタースタンドにベースを置いて、ノリノリでライブをしている姿は、きっと見る人が見たら涙を浮かべちゃうんじゃないかなと思った。無理しないで、とか、きっと心配しちゃうよね。


 徳ちゃんのいっこ上の私だから少し解るんだけど、歳を重ねるってことはさ、自分の理想と現実にどう折り合いをつけて行こうかなって、日々工夫することでもあるんだよね。そこで徳ちゃんみたいに上手い方向にシフトしていける人は強い。だから彼は思い切りカッコいいんだと思う。


 大好きな大賀くんの大好きな仲間の徳ちゃんがこんなに素敵なことを知り、もっと大好きになってしまう。最近よくインスタに上げている徳ちゃんがライトアップベースでプレイするムチャクチャカッコいい姿、あれがライブで見られるのも、そう遠くないかもしれないね。






 さて。今回の配信を見て、もっと男子に聞いて貰いたいと思う気持ちが更に強くなった、doaを。

 昔、工業高校で講師をしていた頃、何人かの生徒がdoaが好き、と言っていたんだよね。バンドしてる子だったりすると特に。また、後から別方向で聞いたところだと、車好きの男子だと、サーキットに見に行ったりするでしょ?そうするとかかってるんだってね、doaが。そこで知ったなんてケースもあるようで。


 若い男子のもやもや、というか、心のギシギシしたところを上手く表現していると思うの。歌詞はもちろんだけど、こう、心を掴むメロディもね。なんというか、親しみやすさがあるよね。徳ちゃんお得意のノスタルジックなメロディラインとか、絶対好きだと思うんだよね。


 でもさあ、昔っから、アルフィー編成のバンド=スリーピースバンドってのは女子率が高くてね笑。だから男子はなかなかライブに行こうとは思えないのかもしれないけど、今の状況が少し落ち着いたらぜひdoa見に行ってみてほしい。というか、そこのdoaファンの女子!男子連れて行かない?w 彼氏じゃなくて友達でいいよ全然。むしろその方がいい。彼氏だとね、女子が目をキラキラさせてステージ見てるとヤキモチ焼くから。モチは吉本くんだけで結構w 

 なんて、だめかなあこういうのって。いいと思うんだけどなあ。



 私はその昔、まだ独身の頃、既婚者子持ちの友人♂に小田和正さんのライブに誘われて、現地集合現地解散で、彼は会場先乗りで私は違う電車で行って夏のバーゲン見て、ライブ前に会ってご飯食べて1杯飲んで、彼はホテル取って泊まってきて、私はそのまま電車に乗って帰ってきたってことあるよ。いやほんとに。

 彼とは今でも友達だし、第一、彼はその数年後私の結婚式来てくれたし。私の夫ももちろん知ってるし。

 そういうの、ありだと思うんだけどなあ、私は。





 さてさて。

 今回、ここで白状したいことがある。

 男子の気持ちは上手に表現しているけど、女子の描写はぶっちゃけどうなの?と、実はずっと思っていた。doaの歌詞。

 多分ね、最初に聞いたのがCAMPだったのがいけなかったと思うんだけど笑、「長い髪揺らして白いワンピース着て肩が細くてちょっと頼りなくて」みたいな女子像が多くない?doaの歌詞って、と思っていた。ねえ、でもそうじゃない?全体的に見て。偏見かなあ?



 でも、それってさあ、どうなの?って懐疑的に思ってて。

 そんな女子、実際地球に存在する?(爆笑)



 女はね、もっとずっと強いの。

 涙なんて流さないんだよ。人前では。泣くなら絶対隠れて泣くんだよ。誰にも分からないように。そして翌日は何もなかったみたいな顔してるんだよ。

 そしてそれを解ってくれる男子ってのは、これも地球には存在しないの笑。



 なもんで、doaの曲の歌詞に出てくる女子の、全部じゃないけど一部には、少し、いや、かなり抵抗があった。


 ところが、この歌詞を知って、ガラッとイメージが変わった。なんだ、解ってるんじゃんdoaって。

 「サボテンの花」って言われると「え?チューリップ?」と言いたくなる年代に若干近いのだが笑、そうではなくdoaの曲である。この歌詞は本当に凄いと思った。よく書いてくれたなと。大田さん、天晴れ過ぎます。ライブでもいつか聞いてみたいな。





あのジャスミンティーが飲みたくて

夜中にコンビニまで来たの

幸せそうな男女見て

逃げるように出てきたの

 

眠れない夜が明けるよ

何度も見直すライン

中途半端な期待ばかりして

まだ何も始められない


サボテンの花が咲いている

私のように冷たく

せつない嘘を嘆いても

果てしなく続く砂漠

Oh, I miss you baby


いつものスープが辛かった

14:00過ぎのランチタイム

汗をかいてる自分が

恥ずかしいから出てきたの


サボテンの花が枯れていく

私のように乾いたDays

どんなに泣いても叫んでも

誰にも届きやしない

Oh, I miss you baby


サボテンの花が咲いている

私のように冷たく

せつない嘘を嘆いても

果てしなく続く砂漠

Oh, I miss you baby





 いやあ。

 痛い。これは痛いなあ。

 ものすっごくよく書けてる。リアルな女性の姿が。


 あのね、1番の詞は30代くらいの女性だと思うんだけど、2番はね、読み方によったら私の世代、つまり「揺らぎの世代」を書いたのかなって思えるのよ。きっと女性なら聞いたことあるよね、ホットフラッシュって。私はそれはないんだけど、カラダが変わってくのはここ数年現在進行形でよく解ってる。「サボテンの花が枯れていく 私のように乾いたDays」って、リアルでちょっと痛々しいくらい。


 汗をかいている自分が恥ずかしくて店を出た。こんな悲しい文章があるだろうか。何が理由かは解釈によって全然違うだろう。人なんて全然自分のことなんて気にしてないはずなのに、みんなに見られているように思えるとか、汗をかくことに纏わるなんらかの嫌な記憶が思い起こされてしまって羞恥心の塊になってしまったとか、或いはさっき書いたみたいに、揺らぎ世代の体の変化でもうどうしようもなくて、それを悟られまいとして店を出るしかなかったとか…。


 ああああああ。切ない。もう堪らない。なんでこんなことが解るの大田さん。おうちで話したりしてるのかも知れないけど(既婚を公言してるからいいよね書いても)、それにしたってこのリアルさは凄い。大好きミュージシャンの1人、スガシカオさんがこのくらい激しいリアリティを持って書く人だけど、そんな雰囲気。シカオちゃんが「粘膜」という言葉を選ぶのに対して、大田さんだと「乾き」になっているという、この辺のさあ、なんというかもう。いやあ参るよね。


 B'zの「トワニワカク」という曲はB'z始まって以来の中高年ソングだと思ったけど、このdoaの「サボテンの花」は、doa始まって以来、または音楽業界始まって以来の揺らぎソング、だったりしてね。



 なもんで、doaの女性像が白いワンピース着て、ってのは丁重に却下することにする笑。そしてどうかこれからも、こんな、刺さるけど寄り添ってくださるような、そう、この寄り添うってのを求めているのよ、私達強いからさ、守ってもらわなくてもいいから笑、だからどうか寄り添ってください、これからも。





 第2部も楽しみに見ようと思う。3人のコーラスワークと、オシャレ番長大楠くんを楽しみに。

 写真は最初の3枚は公式ブログおよびTwitterより。






文:創る「 “Long Term Memory (song by CASIOPEA)” (「199X年、あねおとうと」from虚構大学シリーズ)」




This is Sensation’s Fan Fiction


*PART 1*


Title:旅立ち


 エアコンの効き過ぎた部屋の窓を開けると、氷の表面みたいな冷気が僕の顔に触れた。午前1時。いい加減ベッドに入ってコンディションを整えないと、来週の入試で1時間目から爆睡してしまう。解ってはいるのに、頭ばかりが冴えていた。

「眠れへんのか」

 急に声がして振り向くと、兄がドア越しに立っている。いつもならとっくに先に寝ているのに、今日は珍しくこんな時間まで起きていたらしい。

「にいちゃんも?」

「ああ、俺は…ギター弾いててん」

「こんな時間まで?」

「つい、な」

「…前から一度言おう思ててんけど」

「何や」

「ごめん。俺が受験やから、にいちゃん、エレキギター、長いこと家で音出さんで弾いてたやろ。いっつもヘッドフォンして…」

「気にせんでええ。そんなこと。俺は大学でもスタジオでも練習出来るし、いいヘッドフォン買ったから使(つこ)てるだけや」

 午前1時だというのに相変わらずコーヒーばかり飲んでいる。兄は僕の部屋に入ってきた。僕は窓を薄く開けて、残りを閉めた。

「それよりお前こそ、ええのか」

「何が?」

「…何がて。あんだけ文学部に行きたい言うてたお前が、急に経営学部やなんて。偏差値足りてんのやろ?そやったら何で急に変えたん?志望学部」

「別に…まあ、同じ文系やし、受験科目も変わらんかったから…」

「俺に嘘つくな」

「嘘やないよ」

「嘘や。お前、前から歴史学勉強したいて言うてたやん。それがなんで急に…」

「なあにいちゃん」

「うん?」

「…僕、やりたいことが変わったんや。もちろん歴史も好きや。勉強はしたい。でも別に経営学部に入っても、史学の授業は取れるし、本も読める。それでええて思たんや」

「…ほんまか?」

「うん」

「…後悔ないんか」

「ない。絶対」

「そうか。ならええ」

 兄は僕の顔を見て笑った。笑うと細くなる黒目がちのところは、子供の頃から変わらない。

「なあにいちゃん」

「何や」

「もうイッコ謝らなあかんことがある」

「…何や」

「僕、今年、学校行きたくなくて休んでた時が多かったやろ?その時な、にいちゃんが大学行ってておらん日は、部屋入って、にいちゃんの漫画こっそり全部読んでた」

「おま…!ぜ、全部て…!」

「めっちゃおもろかった」

「学校休んどんのやろ⁈そんなん、オカンに見つかったらどない怒られるか解っとんのか⁈」

「大丈夫や。バレんようにやっとったから」

「全く…抜け目ないやっちゃな…」

「それでな、もし僕が無事に大学に受かったらな」

「ああ」

「欲しいコミックスがあんのやけど」

「…解った。どれでも好きなの持ってき」

「ほんま?」


 なあ、ノブにいちゃん。

 僕はにいちゃんのギターがどのくらい凄いんか、誰よりも知っとる。にいちゃんが毎日毎日、どのくらい練習して、どのくらい上達したか、この耳でずっと聞いてきた。

 にいちゃんがこのままプロになることは、火を見るより明らかや。

 それで僕は思たんや。

 いつか大人になったら、にいちゃんのライブを、僕の経営するステージでやりたいて。ライブハウスでもええ。とにかく、にいちゃんのステージを、僕が作りたい。そういう仕事をしたいて。

 まあ、絶対に内緒やけど。


「なあ」

「うん」 

「どの漫画でもええけど、持ってっていいのは、『ジョジョ』以外やで」

 すっかり冷めたコーヒーを啜って、兄はまた笑った。






*PART 2*


Title:思い(song by RAD HAMMER:sung by 大田紳一郎 from doa)


 「こんな時間にまたコーヒー飲んで」

「…姉ちゃん。急になんや」

「話しかけちゃあかんの?」

「そうやないけど」

「夜中12時過ぎてんのやで。いくら若いて言うても、カフェイン摂り過ぎやろ」

「ほっといて」

「…寂しいんやろ」

「何言うてんの」

「自分の、いつも仲良かった弟が、受験が終われば春からは東京やもんね。まあ、受かればの話やけど」

「受かるわ、そんなもん。あいつが受からん訳ないやろ」

「そうやね。だからあんた、寂しいのやろ?」

「いいからほっといてえな」

「ほっとけるかいな。大事な弟がいなくなりそうな時に、恋人と別れるなんて。流石にあんたも参ったやろ?」

「…何言うてんのや、姉ちゃん」

「分からんと思う?そんなことも」

「…」

「大丈夫?」

「…な、なんで分かったん…」

「わかりやす過ぎや。今まで何ヶ月も、週に2回は外泊して。週末はうちにいたことなんてなかったやろ?」

「…そうやったっけ…」

「最初は、ただ、弟が受験やから、励まそうと思て家におるようになったんかなて考えてたんやけど、そうやないなて。ギターばっかし弾いてるのは変わらんけど、いっつもマイナー調の曲弾いて。時々激しくなったなて思ても、陽気な曲なんて一個もない。おかしいて思うの普通やろ?」

「…あんな」

「…うん」

「…別れようて、言われたんや」

「そう…」

「理由、聞かないんか」

「話したいのん?」

「…べ、別に話したないけど…姉ちゃんが聞くなら…」

「はいはい、分かった。なんで別れたん?」

「…それが、俺もよう解らんのやけど、俺が年下やから、安心できんのやて」

「…」

「俺が、他の子らとばっかし、いるみたいに見えたらしい」

「ホンマはどうやの」

「別に、そんなことない。確かにまあ、モテんことはないかもしれんけど、でも、俺はそんなことなくて、ほんまに好きやったんは…」

「ねえ」

「何」

「いつかきっと、あんたをちゃんと分かってくれる人が現れる。その日まで、もしかしたらこんなこと何度かあるかも知れへんね」

「何度か?そんなにあるんか」

「仕方ないやろ、ミュージシャンになるんやから」

「…なんでそれも知ってんねん」

「知らん家族がおる?身内ならみんなわかっとるよ」

「…」

「まあ、よく考えるんやね」

「何を?」

「何が大事か」

「…」

「自分にとって、何が1番大事かわかったら、それを手放さんようにするんやね。そうしていればきっといつか、そんなあんたを、一番側で心から応援してくれる誰かが現れる。そう思うよ」

「…いつかなあ、それ」

「わからんけど、いつかや」

「なあ、俺にそんなこと言ってるけど、姉ちゃんこそ、例の男と、どないなっとるのや」

「心配せんでええよ。少なくともあんたよりは、付き合うのも別れるのも上手やから」

「はあー、言うてくれるわ」

「ねえ、ノブ」

「うん?」

「姉ちゃんは、あんたの味方になるとは限らんけど、でもいつも変わらず、あんたを応援しとるよ」

「…とっくにわかっとるわ、そんなこと」







*PART 3*


Title: 二重螺旋


 「…やっぱりノブやったんか」

「え、あ、ね、姉ちゃん、おはよう」

「おはよう。あんた、また子機持ったまま寝てしまったん?」

「あ、う、うん…」

「昨夜、自分の部屋で電話かけようか思てたんやけど。ま、ええわ。ちゃんと充電しといてね」

「あれ、おかんは…あ、そうか、今日はおらんのやね」

「うん。昨日、東京の私立の受験について行った。やっぱり心配やからって」

「そらそうや。一番下の弟が4日も連チャンで受験やからな…って、あれ、姉ちゃんはどうして今日…」

「会社の創立記念で休み。コーヒー飲む?」

「あ、うん。ありがとう…」

「それで?」

「…何が?」

「なんで断ったん?」

「何を」

「復縁。したいて迫ってきたんやろう?向こうから。昨夜」

「…何で解るねん、そんなこと」

「解りやすすぎやて。あんたの顔見とったら誰でも解るわ」

「俺ってそんなに解りやすいんかなあ…」

「解ってないのは自分だけや。で、何で断ったん?」

「なんでて…」

「まだ好きなんやろ?諦めきれんのやろ?あの年上の。あんなに入れ込んでたんやから」

「…まあな…」

「そやったら、やり直したってよかったやん。折角相手から言ってきたのに、断らんでも…」

「姉ちゃん」

「うん?」

「コーヒー、お代わり」

「自分で淹れ」

「…解った」

「私にも淹れて」

「何やそれ…。あの、別れた後な、俺、ずっと考えてたんや。姉ちゃんの言ったこと」

「何を?あ、ありがとう」

「クリープ自分で入れて。…姉ちゃんこの間言ったやん。一番大事なことは何か、よく考えって」

「そうやったね」

「で、考えたんや。俺、一番大事なんは」

「音楽やろ」

「そう。でもそれだけやなくて。俺、実は」

「バンドやろ?」

「…だからなんで解るねん」

「解らん方がおかしいて。こないだ大楠くん、うちに来てたやろ?ほら、友達2人連れて…まだ高校生の」

「そう。車谷くんと麻井くん。俺達、バンド始めたんや。インストバンド」

「インスト?」

「姉ちゃんも聞いとるヤツや。前に借りたカセットに入っとったで」

「うん。覚えてる」

「ほんまに上手い子達なんや。それで俺、一緒にやろうて言って。やり始めたらこれがまたえらいことシュッと纏まってな。俺感動して」

「へえ」

「それでな、俺、これは大事にしたいなて、本気で思たんや」

「そう」

「だから…だから昨夜は、もう会わへんって言った。姉ちゃんの言う通り、もしかしたらまだ好きかもしれん。でも俺は、もう、振り回されるのだけは、絶対に嫌なんや。そんなんは、性に合わへん。だからもう、お仕舞いにしようて決めたんや」

「…それでええの?」

「うん。どうや、さっぱりしたもんやろ?」

「ノブ」

「うん?」

「未練は愛情やなくて、ただの執着や。きっといつか今の気持ちも、スッキリする日が来る」

「…全部お見通しなんやな」

「何年あんたの姉ちゃんやっとるて思とるの。今朝のその目見たら解るわ」

「べ、別にわんわん泣いた訳やないで!」

「解っとる。でも、べそかいた時のあんたの顔は、子供の頃から一緒や」

「…」

「キョウダイいうんは、一部は同じDNAで繋がっとるの。あんたが嫌でも、解ってしまうもんなんや」

「DNAか…螺旋状やったっけ?二重螺旋。高校の生物で習った気いする」

「それより、お腹空いたやろ?何がいい?」

「え、作ってくれるの?」

「あんたの好きなもん作ってあげる。何が食べたい?」

「ええと…カレーがええ」

「はあ?まだ朝の9時半やで?!」

「でもカレーがええ。なあ、ええやろ?」

「…解らんなあ、これだけは、ってあんた、どこ行くの?顔も洗ってへんのに!」

「今日月曜やろ。『ジャンプ』買いに行かな」

「ええ?!」

「あ、姉ちゃん」

「何」

「…サンキュー」










文:見る「 “Stay Alive, Still Alive” ーTM NETWORK How Do You Crash It? three (配信ライブ) 」




 三部作もいよいよ終わりかと思うと感慨深いものがある。まるで映画のようなエンドクレジット、そしてその後のオマケと呼ぶにはあまりにもゴージャスな3人の姿に、笑顔になったり涙したりしながら、何度も何度も繰り返して見た。


 今言った、このエンドロール後の映像が、毎秒美しくて、どこを切り取ってもポスターになりそうだった。特にバーに座るウツの見事さにはヤられた。私は特別ウツに思い入れはないのだが、この美しさはもう堪らない。

 また、後からバーにやってくるキネちゃんのさり気ないカッコよさ。あの暗いバーでサングラスはさぞ見にくかったろうという書き込みをTwitterで見て思わず笑ったが、それすらも不自然に思えない位サマになっていた。

 そして、静かに自室と思われるコンピュータの要塞のような場所に座るTK。ピンクのフワモコのセーターがあんなに似合う60代は絶対に彼より他を置いていない。





 3つ見て全部で一つの意味を成すような、ストーリー仕立ての、TMお得意の映像美。それはまるで、先日まで見ていたSensationの配信ライブとはまるで味わいの違う作品であった。

 そう、作品だよね。ライブじゃなくて。ライト、衣装(3種類あったろうか。どれも見事に3人の身体に合っていて、採寸をきちんとして最高に美しくカッコよく見えるように作ったんだろうなというのが解る。TKの髪色や、今回のウツの髪の裾だけに入った濃い目のパープルかな?のカラーもどれもドンピシャ。こういうところがTMの拘りだよね、昔から。あの白いシャツ本気で私も欲しい)、選曲、ストーリー(エンドクレジットのScreenplayに藤井徹貫氏の名前を見た時には懐かしさに声を上げた)と、細部までこだわり抜いてとことんまで作り込んだTMと、その場の勢いと熱気を、生のプレイ(とMC)こそ醍醐味とばかりにこれでもかとたくし込んだSensation。味わいが違うだけで、どちらも見事。どちらも天晴。チョコレートアイスもストロベリーアイスも、みんなどっちも好きでしょ?ワインだって赤白どっちも飲むでしょ?そういうことよ。


 ところで、アクセス数などを見ると、先日ここに上げたTKのソロライブの記事をお読み頂いた方が想像以上に多かったので、もしかしたらまたどなたかいらして下さることを期待し、ここでちょっとSensationの情報の補足を。


 Sensationとは、B'zのライブのサポートメンバーとして名を馳せているギタリスト大賀好修さんがリーダーの、キーボード(大楠雄蔵さん)ベース(麻井寛史さん)ドラム(車谷啓介さん)の4人から成る、当ブログイチオシのインストルメンタルバンドである。今回のTMの配信でもラストに新曲と思われるインストが流れるし、TKソロ名義のジャズ系のインストものもあるようなので、もしインストルメンタルがお好きな方がいらしたら、チェックして頂きたい。サブスクも昨年の12月に解禁になっているので、是非。





 TMの配信ライブの話に戻る。

 実は最初の3曲は初めて聴く曲だったのだが、一回聴いただけで次にはメロディが口から出てくるのは、それだけTKの、そしてTMの曲を体が覚えてしまっていると言うことなんだと思った。特に2曲目の「Alive」が良かった。これの歌詞については、ちょっと考えたことがあるので後述。


 3曲目の「N43」、キネちゃんが歌詞もメロディも書いたのは初めてなんだってね。昔からアルバムには必ずキネちゃんの作曲した作品が1つ入っていて、私は結構それが楽しみだった。優しいのにどこか哀愁が漂っていて、切なくなるような曲。今回の曲も、クリスマスソングなんだけど、今聴いてもとっても心地よくて、いわゆるシーズンソングという訳ではなくて、いつ聞いても似合うような曲に仕上がっていた。

 メロディは勿論だけど、文を書く人だけあって歌詞が素晴らしかった。歌詞だけで「くぅー!やられた!」って気分。「月がため息する程」なんて輝いた言葉、出てこないよ。


 それと今回のthreeでは、TKの、トラックメイカーとしての腕もだけど、鍵盤奏者としての才能も遺憾なく発揮され、見せて貰えたと思っている。そのうちの1曲がこれだった。最後終わるかと思いきやTKのキーボードのソロが入るのだが、これが素晴らしかった。

 先程書いたSensationのキーボーディスト、大楠くんの大きな手からしなやかに伸びた長い指とは対照的な、可愛らしい、というかもう、愛くるしい、昔に比べてやや丸みを帯びたTKの指が、信じられない速さでコロコロと鍵盤の上を行き来し、美しいメロディを奏でて行く。この速さ。まさに大賀くんのギターソロを思い起こさせる。前のTKのソロライブの時のブログでも書いたけど、TKの鍵盤はギタリストっぽいんだよね。メロディなんかもそんな感じがした。そしてそのメロディに合わせて優雅にリズムを取るウツ。いやあ、いいものを見せて貰った。


 で、あらためてキネちゃん。

 うまく言えているか解らないけど、あからさまじゃないんだよね、TMってのは。3人の態度もそうなんだけど、こう、いつもちょっと引き気味で、後ろの方でニコッと(今回のライブ、前の2作よりウツが常に少し微笑んでいたのが印象的だった)、あるいはクスッとしてる。そんなイメージ。その中においてキネちゃんってのは、一番身近で一番解りやすくて、でも一番他の2人のことを理解している、そんな人物だと思っている。だからみんなに愛される。


 そのキネちゃんの、キネソロ。これが実に良かった。ルーパーっていうのかな?それを足元に置いて、足で操作しながらリズム(ギターのボディを叩いてパーカッション代わり)やギターを4小節ずつ(だと思う)次々に重ねていって、最後にダメ押しのギター、そしてハーモニカ。見事な曲に仕上がっていた。カッコいいなあと思って見入ってしまった。


 我らが大賀くんがこういうの、得意なんだよね。音を重ねていって、ひとつにしていくみたいなこと。彼の場合はギターとドラムやベースなんかが多いけれど。見ているだけで、聞いているだけで、楽しいんだよねこういうの。


 「Resistance」(懐かしかった。「痛快ロックンロール通り」と横で夫がスマホで調べていたw)も「Be  Together」もどれも良かったけれど、しかしながら最も胸に響いたのはやはり「Self  Control」。これでTMが好きになった。16の時だった。ちょっと薄暗いデパートのレコード店でこのジャケットを見ていた時のことを今でも覚えている。そんな、消せない記憶の奥にある大事な曲を、最後のセットに持ってきてくれた3人に感謝したい。泣きながら聞いた。そして驚いたことに、歌詞を全部覚えていた。あの高速早口みたいな曲の歌詞を笑。いやあ、若い時の記憶って本当に消えないのね。何度も一緒に歌った。



 みんなが間違える。誰もが。それを、どう修復する?じゃなくて、どう壊す?という問いかけ。これが今のTMからの投げかけだ。


 一回ぶっ壊さないと、と彼らは言っているんだろう。直すんじゃなくて。直せないと思っているのか。或いは元に戻したところで、再生にはならない、と言っているのか。再生じゃダメだよ、全部新しくしようよ、という、そんなメッセージなのかも。


 いずれにしても、彼らは戻ってきた。そして何かを壊して、新しくしようよ、と私たちに問いかけている。

 3部作全部を一度に見たくなった。そういう意見がTwitterにもたくさんあった。私もぜひお願いしたい。





 さて。

 TMの歌詞は、TKが書くこともあるが、昔から小室みつ子さんの作品であることが多い。今回の「Alive」もみつ子さんの詞だった。透明感があって、あまり人称が出てこないという印象があるが、今回もそうだった。僕も私も君も出てこず、「大事なひと」とだけ登場する。


 その、大事な人の肩を抱きしめて、「迫る現実を眺めている」。目の前に広がった少し怖いような世界を見つめて「stay alive  Boundary 結び目 探しているよ」。大切なひとを失わないよう願いながら。そんな風に読める。世界に入ったひび割れは修復不可能のように思える程で、自分は絶望の中にありながらも希望を失いたくないと願っている。


 その歌詞に対する、アンサーソングのように思えたのだ。

 B'zの「Still  Alive」が。

 「足りないものはなに? 間違ってんのはどれ? 最後のピース必ず 手に入れてみせる」絶望に苦しむ恋人を必死にこの世に留めんとする問いかけだ。「差し出されたその手は僕が掴もう」「力がもう少し あればいいなと思った 祈りを込めるように 名前を呼ぶよ」「まなざしから放たれるのは希望 何一つ終わりじゃない」。


 世界の片隅で抱きしめ合う2人が、これから先に待ち受ける現実に怯えながらも、互いを頼りにしながら生きていこうとしている。「ここにいてね(stay alive)」「まだいるよ(still alive)」と。

 TMの曲は2014年、B'zが2017年という時差も、単なる偶然とはいえこんなことを考えた理由である。今はもう昔と違って、TMとB'zを両方とも聞くという人は少なくなっているだろうが、全く違うタイプの曲を聴き比べしてみるのも面白いと思う。



 TM NETWORK3部作、全部しっかりと楽しませて貰った。

 コロナ禍だからこそ成し得た、配信というプラットフォームをこれ以上上手に使いこなしたミュージシャンもいなかったのではないかと思う。元々、デジタルな世界は彼らのオハコだし。これからも配信、ぜひ続けて欲しい気がする。TMならではの世界がもっと広がると思うから。

 「懐かしい」だけではない、「新しい」をたくさん、どうもありがとう。





文:見る「揺れない、想い ーZARD “What a beautiful memory 〜軌跡〜” @東京ガーデンシアター(配信にて)」




 努力は惜しまないでする方だ、なんて図々しいことは言わないけど、好奇心に突き動かされさえすれば、何でも出来る限りのことはしてみるタイプではある。

 だから、新しいスピーカーを買った。Home Pod Mini。

 最初、「Hey Siri〜♪」にしか対応してないのかと思い、買って失敗したのかと焦ったがそうではなく、普通のスピーカーのように使うことも勿論できる。実際起動して使ってみるとこれが凄い。360度、音が広がる。1個しか買ってないけど、狭い我が家ではフルサウンドである。洗濯物を干していても、キッチンに立っていても、Miniを動かさずともいい音で聞こえる。いやあ、いい仕事してるなあ、アップル。



 配信でライブを楽しむようになって随分経つのだし、今後も、仮にライブに通えるようになったとしても、ブルーノートなんかは続けてさえくれれば配信を見ることも多いだろうと思い、だったら少しでもいいサウンドで聞けるようにと考えての買い物だった。

 どんなことにも新しい扉はあるものだ。それを開けてもみないなんて勿体無い。




 様々な制約の中で開催されたZARDのライブを配信で見た。

 文字通り、圧巻だった。

 バンドサウンドの厚さと熱さ、歌の華やかさ、ステージの豪華さ。そのどれを取っても天晴れだったと思う。


 これだけのステージを直に見て貰わない訳には行かないと、有観客開催に踏み切った運営側の判断はよく理解できたし、また、それと同時に、1人でも多くの人に見て貰いたいという思いで配信をしたこと、更にはプラットフォームの不具合によりアーカイブ配信が遅れたという理由で、配信期間を1日延ばすという太っ腹さ。観客にはもちろん、配信組にも配慮が行き渡ったライブだったと思う。




 ZARDの楽曲については後半に語るとして、やはり当ブログは、Sensationを中心としたバンドの話を中心に思いつくまま語り倒していきたいと思う。文中、長い割には触れていないゲストの方などもいるが、全ての方々が素晴らしかったことだけは先に言っておく。





 オープニングから圧倒されるコーラス(「きっと忘れない」この歌詞聞くとグッとくるよね1曲目から)で始まり、バンドサウンドが響き渡るのだが、まずなんつっても2本のギターが華やかだった。音が煌びやかというか、ステージ映えするというか。当ブログきってのご贔屓ギタリスト大賀好修さんのギターがいいのはもちろんなのだが、それに追随する、いや違うな、いい意味で大賀くんと対等に渡り合えている森丘直樹さんのギターも素晴らしかった。


 これは主観かもしれないけど、大賀くんがものすっごく上手に森丘くんのギターを盛り立てていたんだよね。「もう少し あと少し…」や「世界はきっと未来の中」など、前半は特に森丘くんにソロを渡す=花を持たせるシーンも多くて、それがとってもよかった。大賀くんのギタリストとしての在り方がこっちにまで伝わってきて。勿論彼がメインなんだろうけど、でもきっと彼の中では、誰が1番で誰が2番とか、そういうことじゃないって思ってるんじゃないかな。そうじゃなくて、互いに互いを引き立て合えるのが一番いいんじゃないかっていうさ。


 彼のギタリストとしての資質が高いことも勿論だが、これはもう、人間性の問題かもしれないけど、だからこそ、こちらは聴いていて心から気持ちよく思えるのである。「森丘くんもギターうまいからね」とある時に言っていたのを思い出した。本当に出来る人だからこそ、相手を認め、相手を盛り立て、相手と共に高め合える。


 「かけがえのないもの」「愛は暗闇の中で」「マイフレンド」など、大賀くんと森丘くんのツインギターのシーンが幾つもあるんだけど、とにかく音が早い。音符が詰まってるというか笑。お互いが「行けええええええ」って言ってる感じで、両者センターで差し向かって真っ向からガチでハモる。一切の狂いなし。しかも双方満面の笑顔。これ大事。2人とも楽しそうなんだよね。見ていて聴いていて、気持ちいいったらない。


 特に、「こんなにそばに居るのに」の1番の見せ場。大賀くんが「行くで」って感じで手を軽くクイっと上げて森丘くんに合図をして始まる両者ガチのハーモニアスなソロ。ほんの数秒の出来事とは思えない密度で、見ていても聴いていても最高だった。





 またガチといえば、大賀くんとサックスの鈴木さんの、ソロの応酬もかっこ良いのだけど、「雨に濡れて」などユニゾンで奏で合うシーンも見ものだった。森丘くんと鈴木さんの「世界は〜」のイントロのユニゾンもよかった。


 昨年の配信ライブの時も思ったけど、サックスとギターって音が少し似てるんだよね。でも、サックスはああ見えて木管楽器だから、ギターより音に色っぽさが更にあって柔らかい。そこをギターがやや硬質なサウンドで厚みをつけるというか、逆に繊細な響きにするというか。意外にも合うんだよねえ、これが。



 「世界はきっと未来の中」をはじめ、大賀くんが歌を口ずさんでいるシーンが幾つか見られる。また、「The Baby Grand」など、時折自分のパートがない、ほんの数小節の間、後ろに大きく映し出された泉水さんの写真をじっと見ているシーンも。


 それは、その姿を見ている画面のこちら側の我々にも、大賀くんの無言の気持ちが伝わってくるようなシーンでもある。


 大賀くんのたくさんあるソロは、どれも彼らしい(なんて、わかったような口を聞くのも憚られるのだけど)乾いた明るい音が多かった。泉水さんの歌は常に潤いがある、水を湛えたような声なので、カラリとした大地を思わせるような、例えば燻銀のボディが美しいSensation4号機やミュージックマンという青いギターの音(「揺れる想い」とかね。私、4号機の次にこの子の音が好きだ)なんか、どれもバランス取れてて、すごく気持ちよかった。もちろん一番活躍した(のかな)モノトーンボディの子(1号機だったっけ?)も好き。



 ガチこそなかったけど、大楠くんと北川加奈さん(超可愛い。こんな顔に生まれてみたかった)のツインキーボードというのもとてもよかったと思う。鍵盤楽器はシンセで代わりができてしまうのに、そこをあえて人間の手による演奏にしたところも、拘りだったかもしれないし、もっと単純なことを言うと、ZARD=坂井泉水さんのステージを盛り上げるのに、女性が1人でも多いのはいいことだったかなと思う。時折少し離れた場所にいる大楠くんと合図をしながら弾いているシーンもあり、微笑みの似合う2人が素敵だった。



 FIELD OF VIEWの浅岡さんとDEEN=池森さん、という、ゲストとZARDの共演シーンでは、キーの違いから1曲の中で何度か変調をしていくんだけど、それも私はよかったと思う。それこそライブならでは、でしょう?


 池森さんの「瞳そらさないで」、車谷くんのパーカッションと大賀くんのアコースティックギターのボッサ調、よかったなあ〜。パーカッションってさ、コンピュータで作るのもいいと思うんだけど、こうやって人の手でプレイされると、聞こえ方云々より、少なくとも味わいは違うよね。しかもめちゃ上手いんだよね車谷くん。流石。






 でもゲストって言ったらまずこの人でしょ、徳ちゃんこと徳永暁人さん。徳ちゃんが編曲したという「瞳閉じて」。曲もグッと来るんだけど、間奏で大賀くんがソロを弾くのをニッコニコの笑顔でアコギ弾きながら見つめる徳ちゃんと、その笑顔に応えるように嬉しそうにニコニコしてSensation4号機を弾き倒す大賀くん。なんですかこの美しいシーンは。しかもその横にはちょっとだけ微笑んでベース弾いてる麻井くん。今やすっかりSensationファンとなった自分としては、ぶっちゃけあの「5 ERAS」よりなんぼも豪華に感じられ、ガン見してしまいライブ配信の時はまともに歌が聞けなかったwww 


 そしてかの名曲「永遠」。徳ちゃんは素敵だった。歌も声がよく出ていた。その後ろで大賀くんが情感たっぷりにプレイしているのもとてもよかった。心も身体も突き動かされる気分だった。



 「こんなにそばに居るのに」の、神野友亜ちゃんって想像以上に声に艶があるのね。いい声だと思う。からの、安定の大田さん!やっぱし大田さんはいいよ、うん、大田さんいるだけで、何だろうこの安心感は。ほんといつもいてほしい感じ。場が和み、同時に場が締まる。



 安定感といえば中盤の「My  Baby Grand」での、大賀くんと麻井くんが観客の皆さんと同じ方向に一緒に揺れながらプレイしてるシーンがいい。しかもおんなじ顔して。この2人、やっぱし合ってるんだよなあ。意識しないで呼吸が合ってる感じがいいんだよね。大楠くんもリラックスした優しい顔してるし(今回のZARD全部通してさ、大楠くん、めちゃくちゃ綺麗に映ってたよね!「大楠雄蔵ベストショット特集」って感じ。拍手)、車谷くんなんか、これ以外の時は割と全編で一打一打が渾身過ぎるような表情してるんだけど、ふっと顔が緩んでくるんだよね。みんないいのよ。この曲の辺りから、どんどん表情が良くなる。


 この間のSensationの配信ライブの時も大賀くんが言ってたけど、「どんなにリアルで会ってなくても、集まればシュッとSensationになる」って、こういうことに通じてるのかなと思う。






 とはいえ、最後のフィニッシュの前に大賀くんの合図で1回音を止めてまた演奏が始まるところなんか見てると、ああバンマスなんだなあってあらためて思う。溶け込んでいながらも、全員のリーダーなんだなあと。これだけの人数を束ねるのは大変だろうけど、まあ、みんなプロだし、みんな気心知れてるだろうし、みんな大賀くんのこと信頼してるだろうし、大賀くんもみんなを信頼してるだろうし。

 そういう、Bondが見えた。泉水さんを巡る。



 泉水さんを巡るBond、でも一番はやはり大黒摩季ねえさんだろうね。いやあ、聞きたかったなあ生歌で。泉水さんとマキ姉さんのハモリ。


 「Good-bye My Loneliness」聞き応えたっぷりだった。91年らしい、というか、その前の80年代後期を彷彿させるミディアムテンポ。ギターのリフが、86年に確か出た、大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」を思わせるリズムと音作り。実に懐かしかった。


 もう1曲の「愛は暗闇の中で」。実はd-project with ZARDという企画もののアルバムで、私はこれが一番好き。このアルバムのこの曲をアレンジしたのは、後ろでノリノリでベース弾いてた麻井くんなので、嬉しさ倍増。Twitterで言っていたように、確かに彼は右足が軸。これがバッチリ解る曲でもある。今回のライブでもベースとドラムをかなり効かせたアレンジ。大黒姉さんが大賀くんを煽ればステージのボルテージは当然最高潮。



 さて後半のバンドオンリータイム、「If you gimme smile」にはカントリー調のギターのリフ(音もバンジョーっぽかったね)があったり、「心開いて」には森丘くんの透明度の高いトーンでのソロがあったり、サービスたっぷり。


 楽曲として胸に一番グッと刺さった「Today is another day」。これは好きな人多いんだろうなあ。バンドが全員とてもリラックスしたいい顔でプレイしていたのも印象的。大賀くん、鈴木さんのソロのやりとりの間の大楠くんのキーボードが美しい。



 今日は演らないのかなと思っていた大好きな「Forever You」がアンコールで聞けたのは嬉しかった。歌詞については後述するが、これを聞くたびにどうしても泣きたくなる。大田さんのアコギで泣き、車谷くんの大振りのドラムの後に入る大賀くんのレスポールがまた泣かせるんだ。


 

 でね、最後はゲストまで全員で集まって「負けないで」って来る訳よ。そこまでは予想がついたの。

 その後よ、私の涙腺が決壊したのは。

 え?見た人はみんなしたでしょう?現場で見た人もだろうけど、配信だってそうよ。もう何度繰り返してあのシーン見たか解らない。



 全ての曲が終わった後、中央に運ばれてきた、泉水さんの美しい写真。それをさ、そのまま置き去りにすることなく、一番最後に退場する2人が運んで行くんだ。それが、大賀くんと麻井くんだったんだよね。


 配信ラスト1分半を切った辺りのところで、ゲストが退場して他のバンドメンバーも去って行く中、最後にステージ上の段を降りる時、大賀くんが麻井くんの背中をポンと叩いて、先に行くよう促す。その後2人で前に進み、大賀くんが泉水さんの写真を手に持つと、笑顔で高く上に掲げる。その横で麻井くんが両腕を上げて観客と一緒に拍手を送る。皆で拍手する中、腕を下ろした麻井くんがさり気なく写真立てを持ち、少し乱れた長い前髪に横顔を隠したまま先に退場する。


 大賀くんはしばらくの間、泉水さんの写真を、一番遠くの席にまで届けんが如くゆっくりと自分の前を旋回させ、最後手前に持ってくると、もう一度高く掲げて、再び今度は自分が彼女の顔を横から覗き込むようにすると、彼女にいつものようにニコッと笑いかける。そしてその最高の笑顔のまま、彼女の写真を肩や頭の上に掲げて、何度も何度も観客に写真を見せながらゆっくりと退場する。


 粋な演出、とも言えるし、演出ではないからこその想いが伝わるとも言える。いずれにしても、大賀くんと麻井くん、この2人が、泉水さんと時間と共有してきた過去と、そして今を代表しているのだなあと。


 ある意味ここは、一番のクライマックスだった。なんて言うと、「演奏じゃないのか?」と言われそうだが笑、いやいやそこは勿論そうなんだけど、なんていうのかな、人間の「思い」みたいなものをひしひしと感じたんだよね。それが泉水さんに通じているのはもちろんのこと、私達にまで通じたということだ。

 嗚呼。美しいラストじゃないか。






 じゃあ、ここからは少しZARDの話を。ライブとは関係ない話で、私の所感になるので、遠慮なく読み飛ばしてほしい笑。



 ZARDが91年デビューということで少し考えてみたのだが、当時まだレコード会社的にはエピック・ソニーが全盛期で、80年代後期からの代表的なところを思い返してみると、REBECCAのNOKKOにしても、美里にしても、バービーの杏子さんにしても、プリプリにしても、あるいは路線違えども遊佐未森とか、もうちょっと後に出てくるCharaとか、その辺の彼女たちは「女の子のための女の子」でいてくれた人達だと解る。


 女子だからって◯◯できない、なんて時代はもう古い。期せずして時代は昭和から平成へ。これからは、自分で立ち上がって行く時代。もちろん、アッシーだのメッシーだのという言葉はまだ生きていたし、「苗場のユーミンのチケットあるんだけど」という殺し文句もまだまだ使える時代だった。とはいえ、女子が女子でいて何が悪い、じゃないけど、言いたいこと言ってやりたいことやっていいじゃん、みたいな風潮に加速度はついていたと思う。


 私の友人は昔、「よく男の人におねだりして高いものを買ってもらう人がいるけど、そんなめんどくさいことするなら、自分で稼いで好きなもの買う。そのほうが早い」と言っていた笑。まさに象徴するような台詞だよね。そんな時代を後押ししてくれたのが、エピック組の女性ミュージシャンだったんじゃないか。


 また、さっき書いたように、この人達は、「女の子」の代表だったと思う。強い、または強くなろうとする女の子達の。美里は特にその傾向が強かった。だから女子から(勿論男子からもだけど)絶大なる人気を得た。


 女性でも女でもなく、女の子。だからこそ私達は共感出来た。「まだ知らなくていいことは多い。知りたいけど少し怖い。ならまだ怖がっていていい。だって女の子だから。」そんな、勢いはあるけど少し無責任で無防備な女の子達を応援してくれていた。女性ミュージシャンでなくとも、レーベルメイトのTM  NETWORKにも「GIRL」や「GIRLFRIEND」という曲があったし、松岡英明もHey girl, study after school〜♪って歌ってたしね。FENCE OF DEFENSEでさえI want your love 〜Hey girl〜♪って歌ったし。大江千里さんも勿論♪六甲Girl〜♪だしさ。(岡村靖幸はBabyで、これはその後ミッチーへと脈々と受け継がれることとなる。)


 で、そうなると困るのは多分男子で。

 大ヒットした久宝留理子の「男」(タイトルこれだからねw)の歌詞を見るとよく解る。

「だいたい実は男なんて あまったれで情けなくて

 だいたいいつも男なんて 自分勝手で 頭にくる」

こんな歌だよ?笑。男子だってここまでズバッと言われちゃあ行き場がないよね。まあ私この歌好きで、カラオケで歌ったことあるんだけどさwww

 或いは、大沢誉志幸のあれ。「見慣れない服を着た 君が今出て行った」あと、「そして僕は途方に暮れる」訳よね。女の子はさっさと、かどうか解らないけど自分から出ていく。同じく大沢誉志幸の作品だったと思うけど、鈴木雅之の「ガラス越しに消えた夏」では「サヨナラが言えただけ 君は大人だったね」と、別れを切り出すのも女の子から。

 こうやって見てくるといやあ〜、この時代のヒットソングって、強いなあ〜女の子!w


 女子が強くなればなる程、どう扱っていいのかわからなくなる。マニュアルに当てはまらない女子ばかりが増えていく。言いたいことを言う。したいことをする。手には負えない。段々めんどくさくなる笑。強い女の子は楽しいけど(そう、この「楽しい」ってのがこの時代の女子達の在り方だったんだよねえ)、自分としてはもう少し弱さも持っていて欲しい、と。


 そんな中まさにミューズの如く現れたのが、ZARD=坂井泉水だったんじゃないかと思う。

 綺麗で、強がっていても弱くて、誰かを頼りたくて、不幸な恋に落ちている。まさに男性のドツボじゃないか、これ。





 ZARDの初期の頃の歌詞を読むと、本当にどこから切っても「オンナ」の匂いがする。中島みゆきなんかも「女」の歌を歌うけど、みゆきの歌う女は「オンナ」じゃない。つまり、ありのままの「女」。ちなみにユーミンはあえて言うなら「女性」または「Female」。

 異性だけど、B‘zはあの頃からLadyかWomanだったよね。あ、Girlもあるね初期には。また、アン・ルイスの大流行した曲は、「My name is woman」。


 ZARDはその点違ったと思うのだ。

「オンナ」を歌っている気がした。男が求める。

 それは言い換えれば、「女の子」であることを喜んで積極的に受け入れているような、私のような当時の「女子達」には絶対に行き着くことのできない境地だった。つまり、当時の10代後半から20代前半、高校生から大学生の女の子達には、ZARDの世界は冥王星より遠くにあったのではないかと思う。


 だから、これはあくまでも私の意見だが(でも自分だけだと独りよがりになるので、親友のKちゃんにも意見を求めた上でこれを書いているw)、90年代初期以降だと、ZARDを好んで聴いている女性が周りには誰もいなかったように記憶している。だってカラオケで聞かなかったもの。女の子が歌うのを。ZARDを聞いているとしたら全員、男性。





 なもんで、実はZARDって、私が大賀くんを好きにならなかったら一生聞くことなく終わっていたかも知れないんだよね。


 じゃあこの2年の間、配信ライブを見て、または聞いてどうだったかというと、決して嫌じゃなかったんだよねこれが。泉水ちゃん(私は普段こう呼んでいるのでここからこれで行かせて頂く)の詞の中に段々変化が見られるのが解って、とても興味深かった。有体にいえば、彼女を好きになった。そして胸が裂かれんばかりに悲しくなった。彼女が今いないことが。


 彼女の詞は、最初マンツーマンで男を「待っている女」の詞である。「もう少し あと少し…」「雨に濡れて」「世界はきっと未来の中」「こんなそばに居るのに」「Good-bye My Loneliness」等に見られるように、「〜されたい」「〜してほしい」といった、まあ英文法っぽく言えば<受け身>や<依頼の表現>が多いのでも解る。決して能動にならない。その男とは結ばれないと解っているから。つまり、8割5分の確率で不倫である(おかしな言い方かもしれないけど、流行ってたんだよね当時、不倫という風潮が。不倫は文化だって言った俳優もいたし。今考えるとこれ、過去の遺物と捉えれば、確かに文化と言えば文化なのかもね。文化って時々大きく間違ってる時あるしw)。不倫である以上相手と結ばれることはまずもって、ない。でも待ってしまう。そして諦めきれずにずるずると付き合ってしまう。


 これって男に取っちゃあ最高のシチュエーションじゃない?

 色白で、髪が長くて、黒目が大きくて、あまり笑わなくて、肌なんか毛穴一個もなくて、曲線が滑らかで豊かで、飾らない普段着のスタイル(しかも今風に言えば萌え袖)が好きで、少し高い声で、一生見ていたいくらい綺麗な脚を持った、こんな、信じられない程可愛くて可憐な子が自分を好きだって言って離れられないって言って縋ってくるんだよ?歌の中とはいえ。そらファンも増えるわ。って思う訳よ。


 それが、少しずつ変わってくるんだよね。多分あの国民的ソングになっている「負けないで」辺りにその片鱗が見られるんだろうけど。




 それがさ。気になって調べたら自分としては相当凄いことが解って。

 この「負けないで」という歌が出たのが93年。私としては非常に記憶に残っている時期である。


 92年、大学4年だった私は、前年まで全ての英文科の先輩達が貰えていた就職内定に関して、自分の女子の同級生の殆どが貰えていないと知る。男子は貰えているのに。いわゆる就職氷河期の始まりである。これは女子のが先に来た。男子学生に降り掛かってきたのは翌年だ。(ちなみにこの時民間から内定が貰えなかった同級生はこぞって公務員試験に流れ、その年または翌年に合格した。)


 93年、院の1年になった私はゼミで教授にある日尋ねた。言っても仕方のないことだが、何故前の年まで貰えていた内定が、私達の時から貰えなくなるのか。みんな頑張って就活したし、真面目に頑張っていたのに。こんなの不公平じゃないか。ああ、若かったなあ私、こんなこと聞くなんて。


 でも先生は、本気で聞く私に本気で答えてくれた。

 それは違うよ。今でよかったと思った方がいい。この流れは新入社員だけにとどまらない筈だ。時代を見ていると、きっとこれから、企業の中でどんどん辞めさせられてくる人が増えると思う。だから、まだ君達の世代はラッキーなんだよ。

 リストラのことを先生は言っていたのだと後から解った。



 そんな時に出た「負けないで」。そりゃ沁みるよ。

 泉水ちゃん、実は私達の世代にばっちし寄り添ってくれてたのね。

 ちょっと感動した。




 で、歌詞の話だけど。

 例えば、「きっと忘れない」では「変わらないでいて」と相手に向けて歌うけれど、「Today is another day」では「今日が変わる」と変化を恐れなくなる。待つだけだったはずの自分が、「悲しい現実を嘆くより 今何ができるか考えよう 今日が変わる」と一歩踏み出している。あなたのことを諦めきれないけれど、あなたのことばかり考えるのはもうやめたいの、だって時は勝手に進んでいくんだし、とまあ、そんなことを歌っているのかもしれない。とにかく、彼女は変わりたかった。変わることを拒んではいなかった。


 また、今まで相手の男しか見てなかった視点が、「Forever You」では、これは私の憶測に過ぎないのだが、あの詞は、ファンに視点を向けているように思える。あのYouは、ファン一人一人、泉水ちゃんを大好きで見守っている人達みんなに向けてではないかと思ったのだ。とすると、どんどん彼女の世界が広がっていっているのが読み取れる。

 泉水ちゃんはきっと、不倫の似合うような人じゃなかった。もっと強くてしなやかで、笑顔の多い恋愛の似合う人だったんじゃないかと勝手に考えている。





 だから。

 だから今の彼女だったら、もっともっと共感出来る詞を書いてくれたんじゃないかと思うのだ。もっとずっと視点の広がった、愛だけに生きるのではなくて、もっと外を見たいな、同じ愛でももっと広い愛を持ちたいな、という、そんな詞を。そしてそれを期待してしまう。


 昔どこかで聞いた、大黒摩季姉さんとのエピソードにもあったが、泉水ちゃんは結構お茶目で、女子同士だと色々と楽しい出来事もあったようだ。そういう姿から、今の時代に彼女が何を書いただろうと想像すると、ワクワクするし、それが叶わぬ願いと解るとちょっとだけ悲しくもなる。


 透明な声を今後も聞く機会があるだろう。次は是非、蒼い空間に浮かんだステージのあなたを、感じてみたい。



 学年だと4つ上になるんですね、あなたは。お姉さんだったんですね。

 あなたの歌の中にはまだ、私の知らない、もっと素敵な歌があるのでしょう。それをこれから知っていくのも、悪くない気がします。


 月に帰った泉水さん。地球にいる間あなたの音楽を守り続けた騎士(ナイト)達は、今もあなたの「おもかげ」を胸に抱いたまま、私達に夢を見せてくれています。

 きっとこの先も、ずっと。