文:行く見る聞く食べる「そして閉じ込められる⁈(笑)ーMakoto Ozone NO MAME HORSES 20年目のthe Day 1 @Blue Note Tokyoー」(2024年8月7日 1st stage)






類稀なる方向音痴だ。

方向音痴1級を持っている(嘘です。

だから都会へ遊びに行く時は、都会に住んでいる人か、都会に慣れている人が一緒でないと、行けない。


その私が、地元から表参道駅まで、そしてブルーノート東京まで1人で行かなければならないと分かった時、何度か行ったことがあるから大丈夫だと口では言ったものの、渋谷駅が自力でクリアできるとは全く思えなかった。一体どうすればいいのかと途方に暮れた時、


「表参道なら、原宿から行けばいいんじゃないの?」

「え」

「原宿、表参道、竹下通りって、昔からセットだよ?行けるんじゃないの?」


夫に言われてスマホを見る。そうか、原宿でJRを降りた後、すぐ横の明治神宮前駅から千代田線に乗れば、一駅で表参道なんだ!


我が家に神降臨。



カントリーサイドから渋谷に行くのはとてもハードルが高い。が、原宿は、どんなに若者が溢れていようと、狭くて小さくて、昔からよく知った駅だ。何故か。そこに国立代々木競技場第一体育館、があるからである。昔この場所は大きなライブのメッカだった。私も随分世話になった。


こうして私は無事、1人で、ブルーノート東京へ、大好きなジャズピアニスト小曽根真さん率いるビッグバンド、No Name Horsesのライブへと足を運ぶに至ったのである。見に行ったのは初日の1stステージ。





新宿で内回りの山手線に乗り換える。新宿駅は地上なら分かるが地下に出てしまうと、表示を頼りにしないと先に進めない。何とかホームに出て山手線に乗る。原宿着。ああ、新しくなったけどわかる!この感じ!トイレの場所も一緒!

表参道口から出るとすぐ、足元に水色の千代田線への案内矢印が見え、それを素直に辿っていくと即明治神宮前駅へと吸い込まれる。うわあ簡単サルでも行ける(サルに失礼な)。来ていた列車に乗り込み、一駅で表参道へ。こんなに楽に行けるなんて、5月に松本孝弘さんとSensationのあのライブに来た時は予想もしてなかった。あああの時このルートを知っていたら(夫よ何故早く教えてくれないのだ)。


が、ここで落とし穴にハマる。

表参道駅には出口がたくさんあり、どれに出るかによって行くべきところが全く違ってしまう。しまった。そこまで考えてなかった。スマホを取り出すが、慌てているので、何をどう検索したらいいのか一瞬思いつかない。すると。


「A5!A5に出るのよ!」


とKちゃんからメッセージが。

本当は今日はKちゃんと来るはずだったのだが、さる事情があり、今回はPちゃんと行くことになったのだ。だけどKちゃんはこうやって私のサポートをリモートでしてくれている。泣きそうになった。決して表参道駅から漸く出られるから泣きそうになったのではない。






地上に出ると、おお、5月に見た時と同じ風景だ。すぐに歩き出す。高級ブランドのおしゃれな建物や、若者が列をなして並んでいる店などを通り過ぎ、信号を渡って根津美術館を前を折れて真っ直ぐ進む。ああ、見えてきたあのフラッグ。


ブルーノート東京の前にはまだ誰もおらず、写真撮り放題。ラッキー。

開場まで時間があったので、記憶を辿ってそこから更に数分歩いて、骨董通りのスターバックスへ。ドリンクをオーダーし終わった時、トイレが暗証番号式なので、利用する場合は、この数字とアルファベットを入力して入って下さいと言われる。


トイレが暗証番号式。

もうどこの世界にいるのか分からなくなる。


しかし何事もチャレンジだ。

最初、番号の押し方が甘くて上手に開かず落ち込んだが笑、ゆずフレイバーのドリンクを少し飲んで気持ちを落ち着け、再度アタックすると今度は簡単に開いた。やった。やったぞ。私は青山のスタバのトイレに勝ったぞ。





暫く涼んで汗がひいたところで、時間が来たのでブルーノートに戻ると、今度は少し人が来ている模様。まもなくドアが開き、オープンまでの時間を中のロビーで過ごすことに。Pちゃんはまだ仕事だろうから、ゆっくりするとしよう。

自分より年上の方々が多い気もするが、若い人もいる。そして外国人のお客様も多い。あちこちで、小曽根さん仲間なのか、顔見知り同士の交わす楽しげな挨拶が聞こえ、どこの音楽ファンも似たようなもんだと思う。ブルーノートのグッズやNNHのCDはカウンターのガラスケースに並んでいるけれど、特段の物販もなし。いいなあこの落ち着いた雰囲気。地下ゆえに電波も来ないのでスマホを眺めることもできないが、そんなアナログ感もまたいいのだ。とはいえPちゃんがどのタイミングで来るのかが分からず少々困ったが。



30分後、オープンの時間が来て中に入る。うわあ、5月にも見たけど、やっぱりこの会場は足を踏み入れただけで何度でも感動。案内された席へ座ると予想通り。


エリア予約をすると、どこの席なのかというシートの詳細が前日にメールで届くのだが、そこに書かれた数字を見て、だいぶちょっぱや、というか多分1番か2番くらいの速さで取ったにしてはやけに端の席だなと最初は思った。しかしながらそれは今回の場合、逆に特等席のチャンスなのだ。

小曽根さんのYAMAHAのピアノはシモテ側にどかーんと置かれている。従って、小曽根さんが見たければ、シモテ側に寄るしかない。

今回のお席、ズバリ、小曽根真ドセン。

前に6〜7名いらっしゃるが、全てステージに向かって横向きの席なので、私の席からは若干背中達で隠れはするものの、真っ直ぐ向けば、小曽根さんがピアノを弾く指が見える位置なのだ。いいお席をありがとうございました。




Pちゃんが来る前に先に頼んでおこうと思い、まずは今日のオリジナルカクテル “Day 1”を頂く。これが最高に美味しい。口当たりが良く、爽やかで、まろやかなのにキレもある。

氷の浮かんだグラスには、下に桃のピューレ、上にはシャンパン。ブルー・キュラソーにメロン、ほのかにピリッとした生姜。

「バンドの20周年記念と、新旧メンバーの入り混じった演奏をイメージした一杯」との説明が。

メニューには、小曽根さんの直筆のサインと共に、 “Day 1” for Everyone’s Brand New Day. と書かれている。今回、若手のメンバーが入り、20周年目にして新しいDay 1ということでのライブ。ビッグバンドならではだろう。





お料理も何か頼まないとへべれけになってしまうと思い、メニューを開く。へえ、普段はこんなにたくさんあるんだ!松本さんのライブの時は、人数も多いし(今回もソールドアウトで天井桟敷(=小曽根さん曰く「審査員席」)まで埋まってたけどw)特別メニューもあるので、多分限られた品数しか用意されていないのだろう。それともメニューが新しくなったとSNSで読んだので、それで全面的に変わったのかもしれない。

写真でとても美味しそうだったのが「とうもろこしのブリワット」。どんなお料理か解らなくて、ふと英語を見たら「ああ、Spring Roll=春巻きなのね!」と判明したので、コーンをふんだんに使った春巻きを頼んでみる。


ちょうどお料理が来て、Day 1をもう1杯と野菜のグリルを頼んだところで、タイミングよくPちゃん登場。春巻きを食したPちゃん曰く、こんなにパリパリした春巻き生涯食べたことがなかったとのこと笑。もうほんと、何を食べても美味い。

Pちゃんの、パイナップルが豪快に浮かんだモクテルが来て乾杯。以前SNSでみたことのあった野菜のグリルも、どれも瑞々しく、またホクホクしてとっても美味しい。ビーツってなかなか食べる機会ないけど、美味しいよなあ。

せっかくなのでデザートを、と思うが、こってりしたものより何か別のものは…と探していると、自家製ショコラというのがある。これは結局は終演後に頂くことになったのだが(聞いている間はやっぱし双方とも食す余裕がなかった笑)、ものすっごく美味しかった。洋酒が効いているものもあれば柔らかく口溶けの良いものまで、3種とも最高。新しくなったメニューの中の一品らしいが(ウェイターの女性が笑顔で教えてくれた)、甘いものを楽しみつつお酒が飲める人にはお勧め。







ステージの直前に化粧室に行っておこうとして、中に入った瞬間に拍手の音が。しまった、バンドはもう出てくるところだったのか!慌てて脱出して席に戻ろうとしたら、目の前に何人か立ちはだかっているので、スタッフさんかなと思って様子を見てから戻ろうとしていたら、何人かの最前にいたのは小曽根さんご本人だったw

うわあああああよかった!無理やり前になんか行かなくて!w 大顰蹙買うとこだった!端のところにしゃがみ込んで皆さんと一緒に小曽根さんの登場に拍手しながらタイミングを見て着席。




相変わらず小曽根さんの楽しいMCから始まるステージ。今日やる曲は、次に出るアルバムに入るみんな新しい曲で、ここにいる皆さんが本当に一番最初に聴くことになって、というお話があると観客は湧き立つ訳だかそこですかさず


「ですのでここにいる皆さんは、最初のイケニエです」


との一言で観客大爆笑。リラックスした雰囲気の中、リード・トランペットのエリック・ミヤシロさん(エリックさんがトランペットを吹く姿を見た瞬間、ついこの間も見たばかりの、何度配信で見たか分からない御仁が目の前にいるという怒涛の感動を久々に味わった)コンポーズの、テクニカルだが楽しい曲で始まる。


いやあ近い。ステージがものすっごく近い。

Pちゃんと開演前に話したのだが、小曽根さんのYAMAHAのピアノはとても大きいので、小曽根さん自身もステージギリギリまで前に出ることになる。つまり、実際はものの数十センチなのかも分からないけど、観客としては、とんでもなく距離感が縮まった気がする。これは嬉しい。



逆に、松本さんの時もやっぱしこのくらい近かったんだなあ〜と思ったら新たなる感動が芽生えてきた。こんなに近い距離で、こんなにオシャレな、こんなにいい音の会場で、Sensationの演奏を聴けたなんてまさに夢の時間だったのだなあ。



小曽根さんのビッグバンドの良さは、メンバー誰もに必ず目立つ瞬間が与えられているということだと思う。コンポーズする人がたくさんいることも紹介されたし、ではその曲の時は作曲した人が一番目立つのかと言えばそれだけではなく、必ず他の誰かにも長いソロが振られ、これ以上ないというくらいバランスの取れた演奏を聞かせて貰える。


その中でも、必ずどの曲でも要となっていたのが、小曽根さんの信頼もとても篤く見えた、ドラムスの高橋信之介さん。力の入れ方に耳が寄せられるロックと違って、ジャズの場合には、如何に力を抜くかが鍵のような気がするのだが(車谷さんのを聞いていてもそんな気がする)、高橋さんのドラムは緩急の付け方が素晴らしかった。心地いいドラミングというのか、前に出たり後ろに下がったりが自在な方なのだと思う。小曽根さんを見て、タイミングを測って叩き出す姿、配信ではそこまで分からない見どころがたくさんあった。


テナーサックスの三木俊雄さんの作曲した美しいバラード、沁みたなあ。演奏後に小曽根さんがタイトルに引っ掛けて三木さんのことを観客に向かって


「Ordinary Day…こんな(美しい曲のような)、Ordinary Dayを送っていらっしゃるんですねえ」


と言って笑いを取るのも忘れないw


個人的には、トロンボーンの中川英二郎さんの作られた曲が好きだ。私が好きな50年代のジャズのメロディを彷彿させる、というかリスペクトが感じられるというか、そんなパートがいくつもあって、聴いていてとても楽しかった。アルバムが出たら絶対ここだけリピートして聴くんだと思う。


MCでは、小曽根さんのお父様と中川さんのお父様に交流があって、という、ジャズのサラブレッド同士のお話が入る。そういうのをきっかけにして、昔のアルバムに遡ってみたりするのも、ジャズの醍醐味なのよね。




私自身は、何をするのにも、親のルーツというものは余り関係ないところで人生送ってきたタイプだ。お父さんは〇〇でしたかとか、お母さんは〇〇出身ですかとか、職業柄聞かれたことはあるが、全然違っており、私の人生に何ら影響を及ぼしたことはない。

けれど、父が高校時代、某有名校で(今夏は甲子園を逃したが常連校だ)左のピッチャーをしていた、という話は随分ネタとして使わせて貰った。しかも結構な「不良」だったもんで、男子高校生相手に話をする時、これを「掴み」にしたことが何度あることか(笑)。



後半、バンドが一旦ステージから降り、小曽根さんのソロが挟まれる。これがたまらなく嬉しかった。ピアソラの「ローラの夢」。大好きな1曲。小曽根さんの演奏で聴いたことはあるが、ラジオだったので(J-Waveの小曽根さんの番組は、私がジャズを聴くきっかけを作ってくれた)、ナマで聞くのは初めて。

なんであんなに指が動くのか。ひとつひとつの音が粒立ってるのに滑らかで、小気味いいのにエレガント。ひとつの曲の中にいくつものドラマがあって、目の前に広がる風景は無限。余りにも素晴らしくて、3杯目に飲もうと頼んであったオリジナルビールSessionを飲む時間がなくなるほど(頼むなwww)。


演奏後小曽根さんが、


「今日このピアノを見たら、ピアソラが弾きたくなりまして」


とひと言。ええええええ、プロってそういう感じなの⁈w(確かにまあ、大賀さんもヒョイっとギターを持った瞬間、「ああ、この音ならこれがええかな~」とか言ってサラサラっと様々な曲を弾いたりするけど)

それでこんなに演奏できてしまうってどんだけだ。


ブルーノートでライブの時は、いつもYAMAHAのピアノを入れて貰うというだけあって、素晴らしい音だった。そしていい曲の後の、


「タンゴだったんですけど、どなたも踊り出しませんでしたねえ」


には大笑い。




その後メンバーがステージに戻ってきて、今回のタイトル曲にもなっている、小曽根さんの作品の “Day 1”へ。またこれがすごい曲で。複雑なのに楽しいし、壮大なのにすっと心に入ってくる。


小曽根さんがぜひ入って欲しいと思った若手サックスプレイヤーの、陸(くが)悠さんのソロ、よかったなあ。彼のアドリブに小曽根さんが合わせてピアノと掛け合いで遊んでいるようなシーン、小曽根さんのライブだとよくある一コマだけど、これを目の前で見られるってなんという幸せ。



ジャズやフュージョンの良さというのは、メンバーがクルクル変わるのが普通であることだ。フレキシブルで、風通しがいいというか。

クルクル変わる、というより、今度あの人とやってみたらどうかな、という、冒険心というかワクワク感というか。だからそっくり変わる、というのではなくて、多分暫く経つと、じゃあまたあの人とやってみようかなと、昔のメンバーと再会したりするのも珍しいことではない。

Aさんとやろうと思ったけど、Aさん今度はBさんとやってるみたいだから、じゃあCさんに声かけてみようかなとか、まあ実情はそんなに簡単ではないのかもしれないが、だけどジャズやフュージョンは、基本多分、それこそ「セッション」なので、決められらレールの上を走るのとは全く違うスタンスで成り立ってる音楽なんだと思う。


従って、いわゆる推し活的な、いつもいるメンツを推そうみたいなものとは余り縁がないというか、まあ、個人を推すってことになるんだろうけど、それにしても、そういう音楽を好きな人達は、恐らくだが、ロックやポップスを好み、そういうバンドやシンガーを推す活動をしている人とは、心のありようが若干違うんじゃないかと思ってる。


だからこそ、かもしれないが、今回、私も、そしてこういう音楽を初めてナマで聴いたPちゃんも、心から純粋に「音楽」自体を楽しめたのが、本当に気持ちよかった。なんつーか、ストレスフリーっつーのかな笑。ギトギトしたファン集団とは無縁の、音楽を聴きたくて来て素敵な人達が奏でる音楽を楽しめました、っていう、最も根本的なことが出来たのがとても嬉しかった。

知らないだけで、どこにも「ガチ勢」はいるのかもしれないけど、少なくとも今回私達は、そこから外れることが出来た。そして外れることで心安くなれた。

どんなことでも一度ハマるとそこから出るのはなかなか難しい。が、出ないにしても、何事も、「一歩引いてみる(見る)」というのは、結構大事なことかもしれない。




セット最後の曲と紹介されたDay 1が終わると割れんばかりの拍手が鳴り止まない。数秒して、立ち上がったメンバーに「はい、着席(笑)」と促して、「それでは、短い曲を」と小曽根さんの一言があって、


「これは僕のソロの曲なんですけど、これをバンドで演ったらいいんじゃないかと思って。 “Gotta Be Happy” 」


アルバムで聴いたことのある、耳に馴染みのあるメロディが金管楽器の音に変わるだけで、新鮮さや斬新さが加わる。

少しして、トランペットの列から、若手大ホープの松井秀太郎さんがソロのために前に出てくる。優雅な長い髪が今日も印象的だ。

なんて思ってると、度肝を抜かれる、その真っ直ぐで迫力のある音!前に配信で何度か彼のプレイを見たけど、やっぱしすげえわ。彼の出す、太くて真っ直ぐな音がとても好きだ。DIMENSIONの勝田さんのサックスなんかに通じるパワーと繊細さ。


名残惜しくて仕方がない、初日1stステージが終了。ああもっと見ていたかった。平日に来られる機会なんて、いつもならまずないのだし。

終わった後、ステージで小曽根さんが、一番近くでプレイしていたベースの小川晋平さんと互いに激励のハグをしているのが見えた。小川さんも若手の1人としてバンドに入ったお一人だが、安定した音がとても魅力的だった。



そうそう、この日、小曽根さんの奥様(小曽根さんは相棒とかパートナーとかご紹介されることが多い)の関係でお知り合いになったという、斎藤工さんと板谷由夏さんが見にいらしていて、アンコールの時に小曽根さんからご紹介があった。

斎藤工さん、好きですw ほんのちょっとだけ見えました。イケメンでした。


またそのアンコールの時に、このライブのためのオリジナルカクテルの紹介があったのだが、「そうだ!忘れてた!w カクテル!もうなんでも忘れちゃう…w」と小曽根さんが再び笑いを誘っていた。本当に素敵なカクテルですね、とお話があったが、若手とベテランの融合、という意味合いが最高というだけでなく、お味も最高に美味しかった。2杯きっちり飲み干した。




心にしっかり刻みつくようなひと時を過ごしてさあ帰ろうか、という段になった時、どういう訳かみんな出口から先へ進んでいない。なんだろうと階段を上がってみるとうわああああなんだこの雨はwww


仕方なく階段を降り暫く様子を見て、少し弱まって来たところでPちゃんと傘を差し表参道駅へ。サンダルの足はびっしょり、スカートの裾はぐっしょり(珍しくワンピースを着ていた)。しかし地下鉄に乗り原宿へ行き、そこから新宿へ出る頃には足も裾も乾いていた。指定席を取った特急まで時間があったので、Pちゃんと駅構内で茶など一服しばいて、じゃあそろそろ時間かなと言って電光掲示を見るも、なぜか21時発の特急の記載がない。不審に思ってアナウンスに耳を傾けると、運休だというではないか。はあああああ⁈


1番近くにあった改札口で駅員さんに尋ねると、お天気レーダーを見せてくれながら、「この真っ赤な雲が…こっちに流れてくると、どこまで行けるか見当がつきませんが、22時であれば、今のところ、行けるところまで行く予定になっています」とのこと。ひゃあ〜。


夫に連絡して遅くなることを告げ、更にPちゃんに付き合って頂き別の店でカプチーノなど頂く。暫くしてホームに行くと、入線してくるとアナウンスが言った先から激しい雷鳴と豪雨が新宿駅を襲ってくる。大丈夫か本当に⁈


お土産を抱えるほどくれたPちゃんに別れを告げ車中の人となり、あ〜よかったこれで帰れる、と思ったのが運の尽き。大月駅でストップしたかと思うとそのまま1時間停車。まじか。大月駅はもう雨は止んで、少し涼しいくらいの風が感じられる。夫とLINEや電話で様子を伺うと、どうも甲府に近い方がだいぶヤバいらしい。

「そっちは大丈夫でも、トンネル抜けてないでしょう?その辺りとかが大変なん、あ、今停電した!」「ええ⁈」「…あ、ついた。よかった…」とまあこんな感じ。


最初は、飲み物は駅のホームの自販機で買って下さいというアナウンスだったのが、お水を配るというアナウンスに変わる。ええ。ってことは全然帰れる気配、本当にないってことじゃん?お水が配られ、ようやく動くかと思ったら、隣のローカル線の停車駅までとりあえず行くとのこと。駅は真っ暗だしドアは1番後ろしか開かないし、お腹はなんとなく空いてくるし(Pちゃんに貰ったお菓子を開けてもぐもぐしていたありがたかった)、寝たいけど眠れないし(コンタクトもしてるし)。





だけど先程お水を配ってくれた乗務員さんを見ていたら、なんだか疲れたとかいうのも申し訳なく思えてきた。他の方はいざ知らず、私は遊びに出掛けてこの有様なのだし、もうちょっと腰を据えて…いやいや、腰を据えたらダメだろw このローカル線の駅に停まっている頃が1番キツかったかも。


その後ややあって、ようやく塩山駅へ移動と言われるも、そこから先の見通しはまだ立たないとのことで、更にここで食料配布があるとのアナウンス。いよいよこれは朝帰りコースなのだろうか。配られたのはいちご味の米粉のクッキー。程よい甘さが心を落ち着かせてくれ、ちょっとだけホッとした。窓の外を見ると、塩山駅の駅員さんが、クッキーの空き箱を一生懸命畳んでいた。こんな時間まで、私達のために働いてくれてるんだなあと思ったら、ようしもうちょっとだ!頑張って帰るぞ!と前向きになれた。この時点で午前2時。




塩山駅を出られてからは意外に早かった。アナウンスによると、雨は止んでいても、線路の点検を行なっていたため、甲府駅から先へ電車が動かなかったのだという。甲府駅に着いた時には2時30分過ぎだった。



ここまでの間に、Kちゃんを始め自宅に戻ったPちゃん他、SNSで繋がってくれて友達になった皆様からの励ましの言葉、心強かったです。電車に閉じ込められたくらいで大袈裟な、と思われるかもしれないけど、人間ってやっぱし、日常にあまり起こらないことに遭遇すると、割と簡単に心が折れそうになるものなので、ちょっとした言葉をかけて貰えるだけで、心が休まったり元気が出たりする。12時過ぎまで付き合ってくれたKちゃん、絶えず心に留めてくれたくれたPちゃん、帰宅出来ずに都内のホテルから励ましてくれたMさん、本当にありがとう。その他、夜中や翌朝メッセージくれた皆様全員に感謝致します。



驚いたことに駅には結構な人がいて、ああ、やっぱし色々帰れない人とか出たのかなと思っていたのだが、実はこの日、県内随一の大きな花火大会があって、若者はみなこぞって浴衣姿で繰り出すという、一大イベントの日だったため、それで帰宅難民になってしまったり、お迎えを待っていたりしたらしい。


また、翌日職場に行って話したのだが、仕事から車で帰る人はもっと大変な思いをしたらしく、道路が冠水なんてもんじゃなかったらしい。よく「道路が川になって」とは聞くが、「道路が海だった」と皆口々に言っていた。排気口に水が逆流するのがわかったとか、朝まであった家の塀が全部流されていたとか、道路の線が全く見えなかったとか、走れなくなった車が一列に路肩に止まっていたとか。もう聞くたびにすごい話が飛び込んでくる状態。

特急内に3時間スタックされ、深夜2時半過ぎに帰ったなんて、あんまり大したことなさそうな気がしてきた(苦笑。

いやもう、本当、みんな無事でよかった。




最後に。

実はこの日、私は誕生日だった。

まさにDay 1(笑)。

お気に入りのワンピースを着て、初めて1人で表参道に行くことが出来て、骨董通りのスタバに入って、大好きなブルーノート東京で美味しいカクテルを頼んで、最高のライブを友達と見て、そして大雨に見舞われて特急に閉じ込められ、深夜3時前に帰宅し(て4時に寝て翌日夕方から仕事に行っ)たこの日のことが、いつか笑い話になるといいなと思う。


ステージのお写真は全て、ブルーノート東京の公式Xよりお借りしました。







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