文:見る聴く「 How to create new things ーFrom OZONE Till Dawn in Club Part 5 “THE PIANO” 小曽根真、壷坂健登、武本和大 @Blue Note Tokyo(配信にて)ー」




 年を重ねることが一番嫌だったのは30代の頃で、1年1年がまるで足枷みたいに感じられたものだった。ところが40代に入った途端に気持ちが楽になり、ここまで来ちゃったんだから腰を据えて色々考えようと思ったら、見える景色が変わってきた。あらゆる変化、とまではいかないにしても、変化が怖くないというか、いつでもはないにしても、まあそんなこともあるさ、くらいに捉えられることも増えて、肩の力がちょっとだけ抜けたんじゃないかと感じた。


 とはいえ、他人はそうは見てくれない。年を重ねると変に気を遣われたり、逆に使われたい時に使ってもらえなかったりすることも多々ある訳だ。私は仕事柄余りない方だとは思うけど、それでも、「ああきっとあの人、最初に私に接する時すっごい気を遣ってたんだろうなあ」と後から気がつくというか笑、そんな風に思うこともあって、だからこそ出来るだけフランクに、でも砕け過ぎないくらいの言葉使いと距離感を測りながら、日々生きてるというね。まあ大変よそれなりに、って書き出しと違うじゃん苦笑。


 つまりさ、年を重ねてきたら、相手に余計な気を遣わせない=威圧感を与えないって絶対大事だと思うんだよね。自分だって、年だけは食ってるけど解ってないこととかたっくさんある訳だし、逆に教えてもらうことの方が多かったりしてさ。そんなこと一年中あるじゃない?だから、いつでも相手に対して、自分の方が出来るだけニュートラルでいないといけないと思うのよ。

 いや勿論私だってそれを忘れることはある。大体いつも出来てる人ならわざわざこんなこと書かなくったっていいんだしさ笑。自分への戒めとしてもこれを書いてるんだけどね。





 小曽根真さんがリーダーを務め、若手ジャズミュージシャンを同じ舞台に上げてセッションするライブのシリーズがブルーノート東京であり、今回はピアノ2台入れて、つまり全部で3台入れて演るライブの2日目のセカンドステージが配信になるということで、こんなもん聞かないなんて選択肢はないだろうと思い、リリース直後に速攻チケット買って張り切って見た。


 このライブの前日に、元カシオぺアの櫻井さんと向谷さんがライブをしており、向谷さんが「小曽根さんがピアノの音がおかしいって言ったら、向谷が前日に弾いてたって言ってください」と笑いを取っていたのを思い出す。連日ブルーノートのライブが楽しめるなんて、配信じゃなかったらあり得ない話で。本当に嬉しい限りだ。

 ちなみにこの日はYAMAHAさんが持ってきてくれたという素晴らしいピアノが2台入っていて、向谷さんが弾いたのとは別のになっていた笑。


 さて、ホストは小曽根さん(パーマがかかった風のヘアスタイル、素敵でした)だし、若手の壷坂さん(星がたくさん散りばめられたシャツ、可愛かった)は慶応からバークリーへ進み(!)主席卒業(!)、同じく若手の武本さん(ソロ曲 “Tranquility” を弾く時の「タメ」の数秒!)は小曽根さんに「エレクトーンなら世界一。グランプリ取ってるので」(!)と言わしめる御仁。2人ともそれこそ実力派。演奏が素晴らしいのは今更分かりきったことではあるが、あえて言うのなら、いやあもう、エレガントでありながらあのキレの良さ!最高だった。そして小曽根さん曰く「ひとつとしてリハーサルと同じことはしていない。本当に可哀想(な2人)」なのだそう笑。ええっ?!あれアドリブ満載?!あんなに難しそうなのに?!!「ジャズはハプニングがつきもの(小曽根さん)」なんだろうけど、ある意味怖いなそれは笑。まあ、この辺こそがジャズの真骨頂なのかもね。でも実力派同士が3人もいるので、楽しそうにしか見えない。プロだね。




 小曽根さんのピアノに合わせるようにして3人の演奏が始まる訳だけど、それはそれはもうゾクゾクするくらいド迫力なんだ。3人の掛け合いが。

 SNSで小曽根さんが事前に「今回のステージは鍵盤が3台入るという特殊な組み方なので、配信の方は楽しめるかも」と言っていたがまさにその通りで、生音は聞けない代わりにカメラがすっごくいいところについていて、鍵盤が上からも下からも横からも見えて、いいアングルだらけで本当に楽しめた。


 1曲目から小曽根さんがすっごい笑顔なの。めちゃくちゃ笑顔なんだよね。それに釣られるようにして、真ん中のフェンダーローズの武本くんと、小曽根さんと向かい合わせたピアノの壷坂くんがニコニコし出すのよ。笑顔の応酬みたいな感じ。小曽根さんの掛け声に合わせるようにどんどん士気が高まってフィニッシュ!決まった〜という感じで思わず配信ということを忘れて拍手しまくっている自分に気づく。


 よく、当ブログきってのご贔屓ギタリスト、今年結成10周年のインストバンドSensationのリーダー、大賀好修さん=大賀くんがプレイ中こういう表情をしており、彼曰く「ギターは顔で弾く!」ものらしいんだけど笑、 いやいや大賀くん、小曽根さん達3人とも、ピアノも顔で弾いてるよ、という感じ。3人とも、顔で会話してる雰囲気。それが実にいいのよ。見ているこちらのボルテージもMAXだね。

 そういえば小曽根さんと大賀くんって、あの、人を惹きつける笑顔の感じがよく似ている。




 小曽根さん、今年の3月で還暦+1歳になられたらしいのだけど(これも大賀くんと同じ牡羊座ってヤツだね)、とてもそうは思えない。見た目が若々しいというだけでなく、ひとつとしてボス然としたところがないのだ。自分から率先して笑顔だし(勿論こういうのは意図してやろうとしたってできるものではない。ご本人の心がけというか、心の底から楽しんでいなければ出来ないはずだ)、若手2人を引っ張るけれど、若手にいい道を開けて譲ってやるシーンがたくさん見え隠れして。2人のソロ曲もあったし、3人で演奏する時にも常に小曽根さんがファーストじゃない。

 それと、壷坂くんと一緒に小曽根さんが「パンドラ」をデュオをする前のところでの2人の会話、


「こうやって…一緒に音楽やってるとどういう人か段々解ってくる…がっかりしてない?大丈夫?」

「(大笑)」

「(壷坂くんがアメリカで活動しようとした矢先にコロナウイルスが蔓延し、そのせいで)日本に帰ってきて、六本木で真面目に仕事してたら、変なピアニストに出会ってしまって…(客席笑)…そういうことだよね」

「そうなんです」(笑)

「そ…あっはっはっは!『そうなんです』!?…まあ後で楽屋でゆっくり話しましょう(大笑)…って、こんな話して弾く曲じゃないんだよ!パンドラって!」


 これだよ、これなんだよね。このリラックス感。これが客席にも伝わるのよ。勿論、配信見てる私達にも。

 大分偏見かもしれないが、一昔前のロックバンドなんかによくあるような「俺がここのリーダーだ!」なんてカビの生えたようなこと、仮に冗談にしても小曽根さんに限っては一切ない訳よ。この心地よさこそが、音楽の心地よさに繋がるんだよね。





 確かに今回は趣旨が「若手のイントロダクション」であるのだから当たり前といえば当たり前かもしれないけど、でもそれでも思うのよ。小曽根さんはきっといつでもどこでも、こんなスピリットを持った人なんじゃないかって。

 自分だけがソロいいとこ取りとか自分だけがいいカッコとか自分だけが目立つとかでは全くなく、一緒にやるからには当然彼らにもメインステージを明け渡す。この清々しさ。3台の鍵盤を回して弾く、というようなことはライブ前のSNSなどに上がっていたけれど、まさか小曽根さんがフェンダーローズを弾くなんて思いもしなかった。それがまた最高に上手いんだ。何弾いても上手いに決まってるんだけど、でも、まさにこの肩の力の抜けた「余裕」こそが、小曽根真さんという人間の、懐の深さなんだろうと思う。


 そういうことに対し、小曽根さんは、「僕が若い頃、偉大なる先達にチャンスをもらってきたように、僕もこれからのジャズの担い手にそうして行きたい」と語っていたのだけど、それってさあ、出来るようで案外出来ないことなんだと思うよ。人間がどんだけ出来てるかが伺えるだけでなく、本人が本物の一流である必要がある。勿論テクニックだけじゃなくて、人間的に。


 ワールドツアーに出るのだそうだが、ハンガリーのブタペストで、今難民として移動してきている人達にも聞いてもらう機会を作る予定とのことで、そのことについて話す途中で、

「微力ですけれども、微力は、無力ではないと信じて」

と小曽根さんが語った時、心が熱くなった。これだけ素晴らしいことをしようとしていながら、なんて謙虚なのだろう。

 小曽根さんのステージを見る喜びは、こういう、尊い心根を持った人に触れる喜びでもあるのだと、今回あらためて気付かされた。





 冒頭で「これは配信があるのですよね」と小曽根さんが言った後、それがごく当たり前のように「これを世界のどこかで見ている皆さん〜!」みたいな感じで英語での挨拶が始まったのが印象的だった。小曽根さんはちなみに、ごくごく普通に、全体のMCの半分を英語でされていた(小曽根さんの英語はまさに模範だ。誰にでも解りやすい英語でサラッと、端的に、言いたいことを伝える。受験生よ、小曽根真のスピーチ力こそ、インターナショナルに通用する英語力だ。君達も私と同じくぜひ全部真似したまえ笑)。


 そう、配信ってのはさ、世界中に発信されるってことなんだよ。向谷さんも同じこと言ってたじゃん?「インターネットってのはそういうことですから」って。

 だからさあ、配信ライブについての見方を(私も含めて)変えていこうよ。これはライブに行きたくても行けない人のためのものじゃない。そうじゃなくて、世界のどこにいても素晴らしい音楽演奏を享受できるプラットフォームなんだって。楽しみ方のひとつの形。そう考えることで、絶対変わってくると思う。

 別文脈での小曽根さんの言葉を借りれば、


“I love breaking things up. 

That’s the way you go.

That’ s how you create new things.”


ってヤツよ。ふう、カッコいいぜ。



 アンコールの時、客席に、来週小沼ようすけくん(大好き)とライブをする塩谷哲さんが来ており(これさあ…もうむっちゃくちゃ見たいんだけど…配信がないのよねえ…号泣。頼むよブルーノートさーん!)、ステージに呼んだ小曽根さん、ちょっと紹介した後すぐに

「ねえ何弾く?」笑。そして

「ここのステージにピアノが2台あることってなかなかないし…(中略)リオのコンサートキャンセルになったの。なんか、エアコンが壊れてるとかで(客席笑)。いや!ホントなんだって!…だからリオ!」

 と言いながら「あこがれのリオデジャネイロ」をデュオ。これがまた絶品。こんな豪華なおまけつけてもらっていいのかなってくらい。

 本編中の小曽根さんのソロ “Struttin’ Kitano”も小曽根さんらしい軽快でユーモラスな曲だった。小曽根さんの曲は、基本は果てしない美メロだと思うけど、リズミカルなものだと時々モンクっぽい不協和音が入ってとても楽しい。


 最後は3人で、小曽根さんがMy Heroと紹介したオスカー・ピーターソンの “Hymn to Freedom”。配信ライブ見て、何か思い出と被るとかではなく、純粋に音楽の力だけで涙流したのは今回が初めてだった。





 随分前になるが、小曽根さんが、師匠のvibraphonistのゲイリー・バートンとデュオのコンサートをした時、我が県にも来てくれて、4列目で見た。まさにがぶり寄り笑。

 ステージ後にサインをしてくれるというので、それまで持っていなかった、小曽根さんの初期の頃のアルバムでバートンがプロデュースした1枚を購入して並んでサインしてもらった。小曽根さんには「いつもJ-WAVEの番組聞いていました!」と言った。そして憧れのゲイリー・バートンにドキドキしながら英語で話しかけたらそれが通じて、笑顔で答えてくれた。紳士的な優しい笑顔だった。握手もしてくれた。本当に温かい、厚みのある柔らかい手だった。


 私の英語で、私の大好きな人に話しかけたら、それが通じてお返事してくれた、そう思ったあの時のことは今でも忘れない。飽きもせず英語を生業に出来ているのは、こういう原動力があるからだろう。

 そんな、自分にとっての大切な思い出の中に、小曽根さんのような素敵なジャズミュージシャンがいることを心から嬉しく思う。

 ブルーノートの写真は全て公式Twitterより。



 

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