文:聞く「私は天然色ー『風街に連れてって!松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム』」(7月13日公開)


  こんな文章書くつもり全然なかったんだけど、あまりによかったので書かずにはいられなかった。松本隆50周年トリビュートアルバム「風街に連れてって!」。Amazonでアルバムのみ購入。特典で、アルバムジャケットの大きなイラスト付き。これって、B'zの時も時々貰うんだけど、我が家にはこれを飾るほどの余裕(スペース)がないため、床に直おきして楽しんでいる。額に入れて床おきするとオシャレかも。今度買うかw




 まあ、目的はもちろんスーパーウルトラセクシャルバイオレットNo.1だった訳だけど、それだけではなく、他の曲もなかなかよく、さすがは亀田氏のプロデュースだけあるなと唸った次第。個人的に、男性シンガーの曲が全部良かったんじゃないかと思う。この辺はまあ、好みだろうけど。


 小学生、確か5年生か6年生の頃。小さな頃からの習慣で、私は母と共に、新宿から電車に乗って、当時住んでいた場所から、母の実家がある場所へと、夏・冬・春の、学校の大きな休みごとに向かっていた(今はその母の実家がある場所に住んでいるのだが)。それは夏休みで、特急の自由席だったような気がする。多混みの列車内、4人掛けにくるっと回されボックス席のようになっていたうちの、空いていた一つに母は私を座らせた。他に座っていた3人は大学生くらいに見えた。綺麗な女の人たちが何やら小声で楽しそうに話しながら山の多い場所へと遊びに出かける、その道中といったところだろうか。


 窓際に小さなテープレコーダーが置かれていた。私の目は最初からそこに釘付けだった。小学3年の時、おじいちゃんに買ってもらったラジカセは私の日々のおもちゃだった。取説を全部読み、テレビの音やラジオを録音して遊んでいた。当然音楽にもどんどん親しむようになる。その中で、4年生の頃、漫画の読み過ぎで視力ががっくりと悪くなり、私から漫画を取り上げたい一心で母は私にレコードプレイヤーを与える。音楽は次第に私の中で広い面積を占めるようになっていった。

 そんな私のおもちゃであった大きな録音機とは違い、お姉さん達の持つそれは、小さくて、おしゃれで、持ち運びできて、みんなで楽しめる代物で、言ってみればその頃の私には手に入らない、宝石みたいなものに見えた。そして、そこから流れてきたのが、大瀧詠一の「君は天然色」と「カナリア諸島にて」だった。

 小学生なのに、なんで解ったのかって?前出のおじいちゃんからのラジカセで毎週ラジオを聞いていたのと、その頃「カナリア諸島」はテレビコマーシャルで使われていたからである。

 艶のある素敵な声と、ゆったりした美しいメロディに、印象的な歌詞。

「薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて」

 衝撃だった。アイスティーって、レモンじゃないの?うちはレモンだよ。オシャレすぎて小学生にはついていけない世界だったにもかかわらず、私の耳はその曲を全部聴きたい一心だった。

 するとお姉さんが私にお菓子をくれた。チョコレートかなんかだったような気がする。もらった後、母が渋い顔をして言った。

「あっちばっかり向いてちゃダメでしょ」

 そう言われても私は別にお菓子が欲しかった訳じゃない、とは言えず、仕方なく私はテレコに背を向けた。通路側にぶらぶらと足を出し、微かに聞こえる音楽に身体の神経を傾ける。

「想い出はモノクローム 色をつけてくれ」

 流石に11歳では意味は解らなかったが、楽しくて陽気なメロディのどこかに、ふと寂しさが見え隠れするように、まあ、思えたかどうかは定かじゃないけど。

 いまだに忘れられない出来事の一つである。あの時のお姉さん達、どこに旅行に行ったのかなあ。


 今年の5月だったろうか。新聞の土曜版に、松本隆氏のインタビューが載った。そこで初めて、あの曲の前に、氏が悲しい別れをしていたことを知った。妹さんだと書いてあった。

 もちろんあの曲は、恋人との別れを歌ったものだけれど、作家は、自身の体験をそのまま書いたりしないものなのは、多少なりとも解っているつもりなので、その別れを昇華して、あの詞にしたのではないかと思う。

「想い出はモノクローム 色をつけてくれ

もう一度そばに来て はなやいで 美わしのColor Girl」

 記事を読み、すぐにYouTubeを開いてこの曲を聴いた。私は泣いた。何故か泣けた。大事な人を失うとはこういうことだよなあと、勝手に感情移入して泣きに泣いた。


 天然色。高校時代、私の生徒手帳に貼ってあったシールにもそう書いてあった。私の通っていた女子校は非常に雰囲気も緩く、厳しかったという記憶は余りない。いや、個人的には全然ない。もちろん不満を募らせていた友人もいるにはいたんだろうが、それは恐らく僅かで、大体が、いろんな意味で大人だったのか、周りの環境や考え方や自分の置かれている状況と、上手く折り合いをつけながら日々過ごしていた。ほんの少しの校則違反とほんの少しのお菓子と、大いなるお喋りがあれば満足したのだろう。そして先生方も、そんな私達を大方許してくれていた。まあ、80年代後期っていう時代もよかったんじゃないかと思うけど。


 高校に入ってすぐ、服装検査などが行われる訳だが、その時、先生の1人が、自分の髪が、パーマをかけたみたいに見える癖毛だったり、染めたみたいに見える色をしているなら、自己申告してくださいと言った。私は昔から髪が赤いと言われていた。母方の血だ。そこで、天然パーマの友達と一緒に先生のところへ行くと、先生は、友達には「天然波」と書かれたシールを、私には「天然色」と書かれたシールをくれ、「これを生徒手帳に貼っておいて」と言った。「どこか外で何か言われたら、これを見せるように」と付け足して。

 こうして私は高校で公式に「君は天然色」というお墨付きを頂いた。


 カナリア諸島にて、大好きな曲なのだが、今回のトリビュート盤で取り上げられたのは「君は天然色」だった。これを歌っている川崎鷹也、いい。ものすごくいい。むちゃくちゃいい。何がいいって声がいい。なんだろう、大瀧詠一に比べると艶はないのだが、爽やかさが半端ない。しかも何か切ない。乾いた感じがまたいい。伸びもある。いやあいい声。何度もリピートして聴いてしまった。大好きな曲を素敵な歌声で歌ってくれてありがとう。聴いていると、高校生とか大学生くらいの心模様が見える感じ。いいシンガーだと思う。


 今回特に、男性シンガーの曲がよかったと思う。宮本浩次のセプテンバーもニュートラルな感じで、私はまりやのより好きかも。それと驚いたと言ったら怒られるかもしれないけど、キャンディを歌った三浦大知。なんていい声だろう。テレビだと歌に注目することってあまりなかったのだけど、今回彼のボーカリストとしての表現力が発揮されていたと思う。


 この「キャンディ」って曲さ、原田真二の時にも聴いたこともちろんあるんだけど、詞がちょっと、キーツっぽいよなって思っていた。彼女を透明度の高いところに置いて見ている感じ。「誰も君の髪 さわらせたくない 死ぬまで僕のものさ」なんて独占欲が強そうなのに、「朝のきらめきを 素肌にかけてあげる」なんてのはちょっと距離感があるじゃない?この、近づきたいけど近づきすぎると怖い、みたいな感じが、ジョン・キーツだなあって。

で、これとともにセクシャルバイオレットNo.1だもんね、あらためて松本隆氏の振り幅を思った。一流ってのはこういうもんなのね。なんでも書けるのね。


 稲葉さんが歌うその、セクシャルウルトラスーパーバイオレットNo.1ですが、こちらも原曲より湿度が低いのがいい。桑名正博氏の原曲は、時代もあってか、例えるなら、生肉のような滴り落ちる感じが魅力なのだけど、稲葉さんが歌うと、情景として、男女マンツーマンではなく、その、滴り落ちそうな男女の姿を、どっかで若い男の子が見ていて、1人で色々考えて燃えてる感じがする…のは私だけか?w 燃えてるだけあってかなりウェルダンで焼かれている気がする。若さゆえの咆哮というか、そんな感じがして好きだ。松本先生のギターもいつになく若く聞こえる。生肉を食らうか、ウェルダンにかぶりつくか。どちらも取るってのも、まあ、ありかな。


 母が好きだった「ルビーの指輪」、横山剣さんのバージョンを聞いたら、母はなんと言ったろう。聞いてみたかった気もする。私は好きですこれ。剣さんでしか出せない味があると思う。


 女子曲もいいんだけど(ウォンチュー♪とかWomanとか大好き)、男性曲の良さに本当に感動したので、今回はその話だけにしておく。

 いやあ、B'zだからとかじゃなくて、ぜひご一聴頂きたい。想像以上にいいアルバムですわ












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