虚構大学・妄想学群キャンパス内 生協2Fカフェグリル
Part 3:
Title “異邦人”
「ねえねえ雪ちゃん」
「なあに華ちゃん」
「ランチ食べたらROOMに付き合ってくれない?大賀くんが選んだZARDの曲の一覧が出てるって昨日、2年生のルームメイトさんから連絡が来たの。華ちゃんはもう見た?」
「昨日ネットでね。でもまだ大賀くんのだけ。雪ちゃんは見てないの?」
「うん、まだ。今日直接見るの楽しみにして来たんだ。ねえ、一緒に行ってくれる?」
「もちろんよ。Sensationのみんなのセレクトもあるんですってね。大賀くんの友達の徳永さんのも。私も全部見たいわ」
「ねえ雪ちゃん」
「なあに華ちゃん」
「こんなこと言ったらバカって思われるだろうけど」
「なあに」
「私ね、泉水さんって、やっぱり、月に帰ったんじゃないかって思うのよ」
「…華ちゃん、よほど打ちどころが悪かったのね。ROOM行く前に保健センターに寄らなきゃ」
「私、どこも打ってないわよ」
「だったらもっと重症よ」
「昨日ね、思い出したの。覚えてる?まだ私達が高等部の1年生だった時に、大学生だった松本先輩がやった『昭和ポップス大全集』ってライブ」
「そんなタイトルだった?『THE HIT PARADE』って言うんじゃなかったっけ」
「それよそれ。でね、あの時、私、お兄ちゃんのツテで、楽屋に入らせて貰ったのよ」
「あら、そうだったの?初耳」
「そこでね、チラッとだけ松本先輩を見たんだけど、その時、泉水さんと一緒でね、松本先輩が『この曲は坂井さんでないと』って言ってたの」
「この曲って、『異邦人』?」
「そう。その時は何にも思わなかったんだけど、後からふっと思ったの。泉水さん自身が、異邦人だったのかなって」
「どういうこと?」
「あんなに綺麗で、あんなに透明で、あんなに強いのに、あんなに儚げ。誰かに頼りたいけど、誰にも頼らない。しなやかで、品があって、ちょっと悪戯っぽくて、微笑みで瞬殺出来て、誰もを虜にできるほどの魅力があるのに、どこまでも控えめで、ちょっとだけ翳りがあって。それって」
「かぐや姫?」
「そう!そうでしょ?そうじゃない?!」
「華ちゃん、確かに私達、国文学の講義でかぐや姫の話聞いたわよ。だからって…」
「違うの。前から思ってたの。『あなたにとって私 ただの通りすがり ちょっと振り向いてみただけの異邦人』って歌詞は、すごく悲しいけれど、でも私には、ちょっと振り向いてみただけじゃなくて、ずっと見続けていたかった、異国、というか異星から来た、かぐや姫っぽいなあって」
「『空と大地が 触れ合う彼方』か…。そうね、解らなくはないわ」
「でしょう?だからね、ZARD名義じゃないし、オリジナルでもないんだけど、私の中でのZARDセレクトには、あの曲は外せないのよね。松本先輩ってホント最高よね」
「それはとってもよく解るわ」
「ね?だから、泉水さんはかぐや姫。月にいて、今でも私達を見ているんだよ」
「そういえば来週って、十五夜じゃなかった?お母さんが今朝言ってたわ」
「そうなの?じゃあきっと、泉水さんが見えるわね」
「歌声も聞こえるかも。あ、ねえ、早くデザート食べないとROOMに行きそびれちゃうわよ」
「あ、待って今食べる!」
ZARDの30周年ということで、各サブスクリプションでZARDが聴けるようになっただけでなく、ZARDに近しいミュージシャンが音楽をセレクトしてくれました。そんなことにまつわる話を書きたいと思い、虚構大学を舞台にしてみました。
雪ちゃん華ちゃん、というのはちなみに、Sensationの4枚目のアルバム「雪華」に因んでおります。
この、Sensationに因んだROOMMATESの名前の案がいくつかあって、今からどこかで書けないかなと考えております。
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