文:考える「anyとallの間には、今日も冷たい雨が降るーF1ど素人の妻と英語嫌いな夫がF1レギュレーション変更について語り合ってみたー」



 この人が嫌いな訳ないと思うんだよねえ、車。と思っていました。

 当ブログご贔屓ギタリスト大賀好修さん。意味もなく写真を貼ってみる。



 昔から車には余り興味はなかった。免許を取ったのだって相当後になってからで、いまだにペーパードライバーである。

 とはいえ、私がこれまで生きて来たのは車が花形の時代。皆車が大好きだった。親友女子はディーラーも驚く程当時珍しかったMAZDAのMX-6に乗っていたし、もう一人の親友女子も自ら選んだスバルを転がす車好きだった。


 父は運転は全く好きではなかった癖に、勧められると弱いのと自らの誘惑に負け、ある日家族に黙ってトヨタのトレノを契約してきてしまうという無謀っぷりを発揮する人だった。家族がいるのになんでいつも扉が2個しかない車を買って来るんだろう。みんなのうちの車にはちゃんとドアが4つついているのに。2個の扉の車の方が安いのかなぁ…とまあそんなふうに思う程、私は当時から大の車音痴であった。


 そんな車音痴の私が結婚した相手は、遠方に住みながらその季節になると「鈴鹿」に泊りがけでレースを見に行く程の、大の車好きである。トレノがいかなる車であったのかも、結婚してから彼に教わったことのひとつだ。




 彼が見ている横で何となくF1を眺めるようになり、いつしかドライバーの名前が解るようになった。

 F1は、公式の場では話される言語が英語に統一されているため、聞いたり見たりしていると、英語の知識がおまけのように付いてくる。degradationやdebrisといった、普段は聞き慣れない単語も覚えた。そんなこともあって興味が少し持てたのかもしれない。

 とはいえ、エンジンがどうのとか、タイヤがどうのといったところは未知の領域だし、多分今後もよく解らないまま画面を眺めるのだと思う。


 そんな私達2人が先日、某有料チャンネルの「F1ニュース」の録画を見ながら話し合ったのがタイトルの件である。方や英語の知識はあるがF1のルールはからっきし、方やF1観戦歴数十年を誇るベテランだが英語は既に忘却の彼方。正反対の2人が互いの強みを活かして話し合った、これぞまさに「共同作業」だったかも知れない。

 以下が、その時の我が家の会話のドキュメントである。


***********************************


「ねえ、今のとこバックして」

「うん?」

「今のさ、allとanyの話してたでしょ。そこんとこもう一回聞きたい」

「うん」

「…」

「…」

「…」

「おかしいよ」

「何が」

「anyがallに変わったって別に何も変わらないんじゃないのかな」

「そうなの?」

「だってさ、allは『全部の』だし、anyは肯定文、あ、普通の文のことね、疑問とか否定じゃなくて、その肯定文で使えば、『いかなる』って意味だよ?どっちも言いたいことは同じでしょ?寧ろanyを使った時の方が強調されるニュアンスになるくらいだよ。これさあ、そもそも何が問題になってるの?」





「去年ね、最後のレースの時に、レギュレーションの中にanyで書いてあったから意味が曖昧になったってことで、今年はその部分がallに変わったんだよって話なんだ」

「(regulationはruleよりきちんとした規則、規定だったな)」

「去年のレースって、解る?」

「わかんない」

「ほら、これね。去年の最終レースの最後のところで、アクシデントがあったからセーフティーカーが出て暫く先頭を走ったのね。

 その時、まあ、簡単に描くとこんな風になってたんだ」





「セーフティーカーの後ろに1位のハミ、その後ろに…」

「うん、レースはサーキットを走るものだから、遅い車は『周回遅れ』って言って、本当は1周とかの差がついているんだけど、見た目はまるで2位にいるように見える。そういう時あるの、解るよね」

「うん」

「で、1位ハミと、本当の2位MAXの間に、実際は何位の車だったか覚えてないけど、とにかく周回遅れの車が挟まってたんだ。ここでは解りやすく2台挟まっていると仮定して書いてみたよ」

「なるほど。これだと見た目はまるでMAXが4位だけど、本当は2位なのね」

「そう。で、セーフティーカーが出ている間は誰も順番変えられない規則だからこのまま走るでしょ?暫くして、はい、アクシデントの処理が終わりました、はい、セーフティーカーが引っ込みます、そうするとレース再開です、ってことになる。その時が問題だったの」

「どんな」

「うーん、簡単に言うと、偉い審判の人、レースディレクターって言うんだけど、その人がね、『じゃあ、1位と2位の間にいる車だけ、1位の前に出て〜』って指示を出した訳だ。この絵の、2位の後ろにも、周回遅れがいるのにもかかわらず、間に挟まった2台だけに指示を出したんだよね」





「それの何が問題なの?」

「この時、2位のMAXはタイヤを履き替えたばかりで、めっちゃコンディションの整った状態だった。そこへ持ってきて、自分の後ろの車からは抜かされる心配がない状態で、前にいた周回遅れの2台が1位の車より前に出た訳だよ。そうなるとMAXと前にいる1位のハミの間はガラ空き。つまり…」

「MAXがそこでぶっちぎればハミを捉えられるって訳だ!」

「そう。で、実際捉えて、抜いて、そのまま1位になって…そこで去年のワールドチャンピオンになっちゃったという」

「え?!あの時そうだったの?!!」

「うん」


「で、それについて『おかしいだろ』って話がでて」

「何が?」

「同じ周回遅れの車なのに、どうして1位と2位の間にいた2台だけが前に出て、MAXの後ろにもいた周回遅れは出さなかったのかって。実際過去のレースでは、これに似たようなケースでは違う対応を取ってたらしいし。

 その時問題になったのが、今回のanyの話でね。審判は、レギュレーションにanyと書いてあったから、そう判断したって言ったんだよ。つまりanyが発端」

「なるほど。ねえ、話の元になってるレギュレーションが読みたい」

「は?!」

「ねえ、探して。原文を読まなきゃ何言ってるのかわかんないもん。さっきテレビでKさん言ってたじゃん、何章の何番に書いてあるって」

「…(ネットにて探すこと暫し)あ、あったこれだ。55章の13。これは新しくなった方だね」

「見せて」

「今LINEで送った」





If the clerk of the course considers it safe to do so, and the message “LAPPED CARS MAY NOW OVERTAKE” has been sent to all Competitors using the official messaging system, all cars that have been lapped by the leader will be required to pass the cars on the lead lap and the safety car. 


(コースクラークが安全と判断し、公式メッセージシステムにより全競技者に“LAPPED CARS MAY NOW OVERTAKE”(周回遅れの車は追い越しOK)のメッセージが送信された場合、周回遅れの車は全て、先頭車両及びセーフティーカーを追い越すことが求められる)※訳文はformula1-data.comに私が捕捉した





「この、allになったらどうなるかってのを描いたのがこの絵」

「ああ、周回遅れになってた全部の車が抜かせるってことね」

「うん」

「これのallが、元のレギュレーションではanyだったってこと?」

「そうじゃないかなあ」

「…ちょっと待ってよ。これがanyでもぶっちゃけ変わりないんじゃないの?」

「…え、そうなの???」


「anyを肯定文で使う時『いかなる』って意味になるのは言ったよね?で、更にanyが名詞を修飾する場合」

「名刺で就職?」

「名詞を修飾!その場合ね、通例は<any+単数名詞>で使うんだけど、一応、後ろに複数形が来る形も辞書で認められてはいるのよね。普通は


Any bed is better than none. (どんなベッドよりないよりまし)


なんだけど、大修館の「ジーニアス英和大辞典」では、


Our offer is that you can have any five items of clothing you like for $50.

(当店ではお好きな衣類どれでも5点を50ドルで提供しています)


They have pledged to fight any changes to the abortion laws.

(彼(女)らは妊娠中絶法のいかなる改正に対しても戦うことを誓った)


って例文が載ってるのよ(それにしても随分アバンギャルドな例文だな2つ目)」


「で、ええと?つまり?」

「つまり、レギュレーションの改正前のanyの文であっても、「いかなる」の意味になるはずなんだ。まあ、これがもしもif節で使われていたんなら話は別なんだけど」

「え?何どーいうこと?」」

「私が困った時に見る『バイブル』は、長い間ずっとこの2冊なんだけど、




そのうち右にある、江川先生の『英文法解説』にこう書いてあるよ」

「この本、すっごく古いね」

「二十歳の時に大学の授業で買わされたのよ」

「…そんな昔の本、よく取ってあるね」

「自分だって実家の押し入れに江川達也の『Be Free!』全巻まだあるって言ってたじゃん!」

「だめだよバラしちゃ!盗まれちゃうじゃん!」

「そんなモノ好きいないよ!」

「で?!何が書いてあるのこの古い本に」

「109ページのセクション77、SomeとAnyの項目見ると、こう書いてあるのよ。


<<参考>>

条件のif-節では、a)疑問の意味が含まれればanyを使い、b)単なる条件であればsomeでもanyでもよい。

  1. If you have any questions, ask him. (質問があれば、彼に聞きなさい)

(=Do you have any questions? If you do, ask him.)


  1. If you need some/any help, let me know. (手伝いが必要なら知らせてください)


「…つ、つまり?」

「レギュレーション見て。ほらこれ、if節はあるけど、anyが使われているのは主節、文の重きを置かれる方、でしょ?ということは『いかなる』の意味にしか取れないってことになるはずだよ。

 ちなみにこの本の次のページには、複数名詞につくanyの例文もあるし。


Any suggestions from the viewers will be welcome. 

(どんなことでも視聴者からの提案を歓迎します)


ね?だからこのレギュレーションのanyは最初からallの意味とほぼ同意って結論になると思う。だったら最初からallで書けって話だよね。そうすればもっとはっきりするしさ」

「なるほど…」





「でもさ、仮にこのanyをsomeと同じ意味と取ったとして、どうしてハミとMAXの間にいた車だけに適用するのかは解らないよね。何台かの車っていうだけで、特定はされてないんだし」

「うん」

「だったら寧ろallとほぼ同じ『いかなる』の意味で取って、全員を前に出すべきだったと思うけど」

「そうだよね。だからね、このディレクターは解任されちゃったんだよ」

「…ええええええええまじで」

「うん」

「もし、このレギュレーションを最初に書いた人がanyにしても、チェックする人が気がついて『はっきり書こうぜ』って言ってれば済む話だったのに…」

「まあね。でも、批判も出てね。で、解任」

「英文法、恐るべし」


**********************************


 いかがだったでしょうか?

 「書くんならちゃんと誰でもわかるように書くんだよ」と釘を刺されたので笑、一生懸命説明を入れたつもりですが。

 ちなみに途中に出てきた図は、「絵描いてよ」とリクエストしたら彼がエクセルで描いてくれたものです。「手描きだと描けなかったから」とのことだったんだけど、こっちのが大変じゃないのか?!

 本当にありがとう。でもバイト代は、払いません笑。





 どうしても大賀くんを貼りたいというねw


 たった1単語の解釈でクビになっちゃうんだもんねえ。もちろんそこには「故意に曲げて解釈した」という暗黙の抗議があったようだけど。

 F1は、何もかもを瞬時に判断して伝えなければならないスポーツなので、時にこのようなことが起こるのかもね。難しいよね。だからこそ面白いのかもしれないけどさ。

 今年のシーズンはどうなるんだろうね。楽しみだね。そして今年、鈴鹿は開催できるのかな。彼は行きたくて仕方ないみたいだけど。

 私だって行きたいものを我慢してるんだから、その気持ちはわかる。

 でも、願いが叶う日はいつかきっと来ると、私は信じている。





0 件のコメント:

コメントを投稿