努力は惜しまないでする方だ、なんて図々しいことは言わないけど、好奇心に突き動かされさえすれば、何でも出来る限りのことはしてみるタイプではある。
だから、新しいスピーカーを買った。Home Pod Mini。
最初、「Hey Siri〜♪」にしか対応してないのかと思い、買って失敗したのかと焦ったがそうではなく、普通のスピーカーのように使うことも勿論できる。実際起動して使ってみるとこれが凄い。360度、音が広がる。1個しか買ってないけど、狭い我が家ではフルサウンドである。洗濯物を干していても、キッチンに立っていても、Miniを動かさずともいい音で聞こえる。いやあ、いい仕事してるなあ、アップル。
配信でライブを楽しむようになって随分経つのだし、今後も、仮にライブに通えるようになったとしても、ブルーノートなんかは続けてさえくれれば配信を見ることも多いだろうと思い、だったら少しでもいいサウンドで聞けるようにと考えての買い物だった。
どんなことにも新しい扉はあるものだ。それを開けてもみないなんて勿体無い。
様々な制約の中で開催されたZARDのライブを配信で見た。
文字通り、圧巻だった。
バンドサウンドの厚さと熱さ、歌の華やかさ、ステージの豪華さ。そのどれを取っても天晴れだったと思う。
これだけのステージを直に見て貰わない訳には行かないと、有観客開催に踏み切った運営側の判断はよく理解できたし、また、それと同時に、1人でも多くの人に見て貰いたいという思いで配信をしたこと、更にはプラットフォームの不具合によりアーカイブ配信が遅れたという理由で、配信期間を1日延ばすという太っ腹さ。観客にはもちろん、配信組にも配慮が行き渡ったライブだったと思う。
ZARDの楽曲については後半に語るとして、やはり当ブログは、Sensationを中心としたバンドの話を中心に思いつくまま語り倒していきたいと思う。文中、長い割には触れていないゲストの方などもいるが、全ての方々が素晴らしかったことだけは先に言っておく。
オープニングから圧倒されるコーラス(「きっと忘れない」この歌詞聞くとグッとくるよね1曲目から)で始まり、バンドサウンドが響き渡るのだが、まずなんつっても2本のギターが華やかだった。音が煌びやかというか、ステージ映えするというか。当ブログきってのご贔屓ギタリスト大賀好修さんのギターがいいのはもちろんなのだが、それに追随する、いや違うな、いい意味で大賀くんと対等に渡り合えている森丘直樹さんのギターも素晴らしかった。
これは主観かもしれないけど、大賀くんがものすっごく上手に森丘くんのギターを盛り立てていたんだよね。「もう少し あと少し…」や「世界はきっと未来の中」など、前半は特に森丘くんにソロを渡す=花を持たせるシーンも多くて、それがとってもよかった。大賀くんのギタリストとしての在り方がこっちにまで伝わってきて。勿論彼がメインなんだろうけど、でもきっと彼の中では、誰が1番で誰が2番とか、そういうことじゃないって思ってるんじゃないかな。そうじゃなくて、互いに互いを引き立て合えるのが一番いいんじゃないかっていうさ。
彼のギタリストとしての資質が高いことも勿論だが、これはもう、人間性の問題かもしれないけど、だからこそ、こちらは聴いていて心から気持ちよく思えるのである。「森丘くんもギターうまいからね」とある時に言っていたのを思い出した。本当に出来る人だからこそ、相手を認め、相手を盛り立て、相手と共に高め合える。
「かけがえのないもの」「愛は暗闇の中で」「マイフレンド」など、大賀くんと森丘くんのツインギターのシーンが幾つもあるんだけど、とにかく音が早い。音符が詰まってるというか笑。お互いが「行けええええええ」って言ってる感じで、両者センターで差し向かって真っ向からガチでハモる。一切の狂いなし。しかも双方満面の笑顔。これ大事。2人とも楽しそうなんだよね。見ていて聴いていて、気持ちいいったらない。
特に、「こんなにそばに居るのに」の1番の見せ場。大賀くんが「行くで」って感じで手を軽くクイっと上げて森丘くんに合図をして始まる両者ガチのハーモニアスなソロ。ほんの数秒の出来事とは思えない密度で、見ていても聴いていても最高だった。
またガチといえば、大賀くんとサックスの鈴木さんの、ソロの応酬もかっこ良いのだけど、「雨に濡れて」などユニゾンで奏で合うシーンも見ものだった。森丘くんと鈴木さんの「世界は〜」のイントロのユニゾンもよかった。
昨年の配信ライブの時も思ったけど、サックスとギターって音が少し似てるんだよね。でも、サックスはああ見えて木管楽器だから、ギターより音に色っぽさが更にあって柔らかい。そこをギターがやや硬質なサウンドで厚みをつけるというか、逆に繊細な響きにするというか。意外にも合うんだよねえ、これが。
「世界はきっと未来の中」をはじめ、大賀くんが歌を口ずさんでいるシーンが幾つか見られる。また、「The Baby Grand」など、時折自分のパートがない、ほんの数小節の間、後ろに大きく映し出された泉水さんの写真をじっと見ているシーンも。
それは、その姿を見ている画面のこちら側の我々にも、大賀くんの無言の気持ちが伝わってくるようなシーンでもある。
大賀くんのたくさんあるソロは、どれも彼らしい(なんて、わかったような口を聞くのも憚られるのだけど)乾いた明るい音が多かった。泉水さんの歌は常に潤いがある、水を湛えたような声なので、カラリとした大地を思わせるような、例えば燻銀のボディが美しいSensation4号機やミュージックマンという青いギターの音(「揺れる想い」とかね。私、4号機の次にこの子の音が好きだ)なんか、どれもバランス取れてて、すごく気持ちよかった。もちろん一番活躍した(のかな)モノトーンボディの子(1号機だったっけ?)も好き。
ガチこそなかったけど、大楠くんと北川加奈さん(超可愛い。こんな顔に生まれてみたかった)のツインキーボードというのもとてもよかったと思う。鍵盤楽器はシンセで代わりができてしまうのに、そこをあえて人間の手による演奏にしたところも、拘りだったかもしれないし、もっと単純なことを言うと、ZARD=坂井泉水さんのステージを盛り上げるのに、女性が1人でも多いのはいいことだったかなと思う。時折少し離れた場所にいる大楠くんと合図をしながら弾いているシーンもあり、微笑みの似合う2人が素敵だった。
FIELD OF VIEWの浅岡さんとDEEN=池森さん、という、ゲストとZARDの共演シーンでは、キーの違いから1曲の中で何度か変調をしていくんだけど、それも私はよかったと思う。それこそライブならでは、でしょう?
池森さんの「瞳そらさないで」、車谷くんのパーカッションと大賀くんのアコースティックギターのボッサ調、よかったなあ〜。パーカッションってさ、コンピュータで作るのもいいと思うんだけど、こうやって人の手でプレイされると、聞こえ方云々より、少なくとも味わいは違うよね。しかもめちゃ上手いんだよね車谷くん。流石。
でもゲストって言ったらまずこの人でしょ、徳ちゃんこと徳永暁人さん。徳ちゃんが編曲したという「瞳閉じて」。曲もグッと来るんだけど、間奏で大賀くんがソロを弾くのをニッコニコの笑顔でアコギ弾きながら見つめる徳ちゃんと、その笑顔に応えるように嬉しそうにニコニコしてSensation4号機を弾き倒す大賀くん。なんですかこの美しいシーンは。しかもその横にはちょっとだけ微笑んでベース弾いてる麻井くん。今やすっかりSensationファンとなった自分としては、ぶっちゃけあの「5 ERAS」よりなんぼも豪華に感じられ、ガン見してしまいライブ配信の時はまともに歌が聞けなかったwww
そしてかの名曲「永遠」。徳ちゃんは素敵だった。歌も声がよく出ていた。その後ろで大賀くんが情感たっぷりにプレイしているのもとてもよかった。心も身体も突き動かされる気分だった。
「こんなにそばに居るのに」の、神野友亜ちゃんって想像以上に声に艶があるのね。いい声だと思う。からの、安定の大田さん!やっぱし大田さんはいいよ、うん、大田さんいるだけで、何だろうこの安心感は。ほんといつもいてほしい感じ。場が和み、同時に場が締まる。
安定感といえば中盤の「My Baby Grand」での、大賀くんと麻井くんが観客の皆さんと同じ方向に一緒に揺れながらプレイしてるシーンがいい。しかもおんなじ顔して。この2人、やっぱし合ってるんだよなあ。意識しないで呼吸が合ってる感じがいいんだよね。大楠くんもリラックスした優しい顔してるし(今回のZARD全部通してさ、大楠くん、めちゃくちゃ綺麗に映ってたよね!「大楠雄蔵ベストショット特集」って感じ。拍手)、車谷くんなんか、これ以外の時は割と全編で一打一打が渾身過ぎるような表情してるんだけど、ふっと顔が緩んでくるんだよね。みんないいのよ。この曲の辺りから、どんどん表情が良くなる。
この間のSensationの配信ライブの時も大賀くんが言ってたけど、「どんなにリアルで会ってなくても、集まればシュッとSensationになる」って、こういうことに通じてるのかなと思う。
とはいえ、最後のフィニッシュの前に大賀くんの合図で1回音を止めてまた演奏が始まるところなんか見てると、ああバンマスなんだなあってあらためて思う。溶け込んでいながらも、全員のリーダーなんだなあと。これだけの人数を束ねるのは大変だろうけど、まあ、みんなプロだし、みんな気心知れてるだろうし、みんな大賀くんのこと信頼してるだろうし、大賀くんもみんなを信頼してるだろうし。
そういう、Bondが見えた。泉水さんを巡る。
泉水さんを巡るBond、でも一番はやはり大黒摩季ねえさんだろうね。いやあ、聞きたかったなあ生歌で。泉水さんとマキ姉さんのハモリ。
「Good-bye My Loneliness」聞き応えたっぷりだった。91年らしい、というか、その前の80年代後期を彷彿させるミディアムテンポ。ギターのリフが、86年に確か出た、大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」を思わせるリズムと音作り。実に懐かしかった。
もう1曲の「愛は暗闇の中で」。実はd-project with ZARDという企画もののアルバムで、私はこれが一番好き。このアルバムのこの曲をアレンジしたのは、後ろでノリノリでベース弾いてた麻井くんなので、嬉しさ倍増。Twitterで言っていたように、確かに彼は右足が軸。これがバッチリ解る曲でもある。今回のライブでもベースとドラムをかなり効かせたアレンジ。大黒姉さんが大賀くんを煽ればステージのボルテージは当然最高潮。
さて後半のバンドオンリータイム、「If you gimme smile」にはカントリー調のギターのリフ(音もバンジョーっぽかったね)があったり、「心開いて」には森丘くんの透明度の高いトーンでのソロがあったり、サービスたっぷり。
楽曲として胸に一番グッと刺さった「Today is another day」。これは好きな人多いんだろうなあ。バンドが全員とてもリラックスしたいい顔でプレイしていたのも印象的。大賀くん、鈴木さんのソロのやりとりの間の大楠くんのキーボードが美しい。
今日は演らないのかなと思っていた大好きな「Forever You」がアンコールで聞けたのは嬉しかった。歌詞については後述するが、これを聞くたびにどうしても泣きたくなる。大田さんのアコギで泣き、車谷くんの大振りのドラムの後に入る大賀くんのレスポールがまた泣かせるんだ。
でね、最後はゲストまで全員で集まって「負けないで」って来る訳よ。そこまでは予想がついたの。
その後よ、私の涙腺が決壊したのは。
え?見た人はみんなしたでしょう?現場で見た人もだろうけど、配信だってそうよ。もう何度繰り返してあのシーン見たか解らない。
全ての曲が終わった後、中央に運ばれてきた、泉水さんの美しい写真。それをさ、そのまま置き去りにすることなく、一番最後に退場する2人が運んで行くんだ。それが、大賀くんと麻井くんだったんだよね。
配信ラスト1分半を切った辺りのところで、ゲストが退場して他のバンドメンバーも去って行く中、最後にステージ上の段を降りる時、大賀くんが麻井くんの背中をポンと叩いて、先に行くよう促す。その後2人で前に進み、大賀くんが泉水さんの写真を手に持つと、笑顔で高く上に掲げる。その横で麻井くんが両腕を上げて観客と一緒に拍手を送る。皆で拍手する中、腕を下ろした麻井くんがさり気なく写真立てを持ち、少し乱れた長い前髪に横顔を隠したまま先に退場する。
大賀くんはしばらくの間、泉水さんの写真を、一番遠くの席にまで届けんが如くゆっくりと自分の前を旋回させ、最後手前に持ってくると、もう一度高く掲げて、再び今度は自分が彼女の顔を横から覗き込むようにすると、彼女にいつものようにニコッと笑いかける。そしてその最高の笑顔のまま、彼女の写真を肩や頭の上に掲げて、何度も何度も観客に写真を見せながらゆっくりと退場する。
粋な演出、とも言えるし、演出ではないからこその想いが伝わるとも言える。いずれにしても、大賀くんと麻井くん、この2人が、泉水さんと時間と共有してきた過去と、そして今を代表しているのだなあと。
ある意味ここは、一番のクライマックスだった。なんて言うと、「演奏じゃないのか?」と言われそうだが笑、いやいやそこは勿論そうなんだけど、なんていうのかな、人間の「思い」みたいなものをひしひしと感じたんだよね。それが泉水さんに通じているのはもちろんのこと、私達にまで通じたということだ。
嗚呼。美しいラストじゃないか。
じゃあ、ここからは少しZARDの話を。ライブとは関係ない話で、私の所感になるので、遠慮なく読み飛ばしてほしい笑。
ZARDが91年デビューということで少し考えてみたのだが、当時まだレコード会社的にはエピック・ソニーが全盛期で、80年代後期からの代表的なところを思い返してみると、REBECCAのNOKKOにしても、美里にしても、バービーの杏子さんにしても、プリプリにしても、あるいは路線違えども遊佐未森とか、もうちょっと後に出てくるCharaとか、その辺の彼女たちは「女の子のための女の子」でいてくれた人達だと解る。
女子だからって◯◯できない、なんて時代はもう古い。期せずして時代は昭和から平成へ。これからは、自分で立ち上がって行く時代。もちろん、アッシーだのメッシーだのという言葉はまだ生きていたし、「苗場のユーミンのチケットあるんだけど」という殺し文句もまだまだ使える時代だった。とはいえ、女子が女子でいて何が悪い、じゃないけど、言いたいこと言ってやりたいことやっていいじゃん、みたいな風潮に加速度はついていたと思う。
私の友人は昔、「よく男の人におねだりして高いものを買ってもらう人がいるけど、そんなめんどくさいことするなら、自分で稼いで好きなもの買う。そのほうが早い」と言っていた笑。まさに象徴するような台詞だよね。そんな時代を後押ししてくれたのが、エピック組の女性ミュージシャンだったんじゃないか。
また、さっき書いたように、この人達は、「女の子」の代表だったと思う。強い、または強くなろうとする女の子達の。美里は特にその傾向が強かった。だから女子から(勿論男子からもだけど)絶大なる人気を得た。
女性でも女でもなく、女の子。だからこそ私達は共感出来た。「まだ知らなくていいことは多い。知りたいけど少し怖い。ならまだ怖がっていていい。だって女の子だから。」そんな、勢いはあるけど少し無責任で無防備な女の子達を応援してくれていた。女性ミュージシャンでなくとも、レーベルメイトのTM NETWORKにも「GIRL」や「GIRLFRIEND」という曲があったし、松岡英明もHey girl, study after school〜♪って歌ってたしね。FENCE OF DEFENSEでさえI want your love 〜Hey girl〜♪って歌ったし。大江千里さんも勿論♪六甲Girl〜♪だしさ。(岡村靖幸はBabyで、これはその後ミッチーへと脈々と受け継がれることとなる。)
で、そうなると困るのは多分男子で。
大ヒットした久宝留理子の「男」(タイトルこれだからねw)の歌詞を見るとよく解る。
「だいたい実は男なんて あまったれで情けなくて
だいたいいつも男なんて 自分勝手で 頭にくる」
こんな歌だよ?笑。男子だってここまでズバッと言われちゃあ行き場がないよね。まあ私この歌好きで、カラオケで歌ったことあるんだけどさwww
或いは、大沢誉志幸のあれ。「見慣れない服を着た 君が今出て行った」あと、「そして僕は途方に暮れる」訳よね。女の子はさっさと、かどうか解らないけど自分から出ていく。同じく大沢誉志幸の作品だったと思うけど、鈴木雅之の「ガラス越しに消えた夏」では「サヨナラが言えただけ 君は大人だったね」と、別れを切り出すのも女の子から。
こうやって見てくるといやあ〜、この時代のヒットソングって、強いなあ〜女の子!w
女子が強くなればなる程、どう扱っていいのかわからなくなる。マニュアルに当てはまらない女子ばかりが増えていく。言いたいことを言う。したいことをする。手には負えない。段々めんどくさくなる笑。強い女の子は楽しいけど(そう、この「楽しい」ってのがこの時代の女子達の在り方だったんだよねえ)、自分としてはもう少し弱さも持っていて欲しい、と。
そんな中まさにミューズの如く現れたのが、ZARD=坂井泉水だったんじゃないかと思う。
綺麗で、強がっていても弱くて、誰かを頼りたくて、不幸な恋に落ちている。まさに男性のドツボじゃないか、これ。
ZARDの初期の頃の歌詞を読むと、本当にどこから切っても「オンナ」の匂いがする。中島みゆきなんかも「女」の歌を歌うけど、みゆきの歌う女は「オンナ」じゃない。つまり、ありのままの「女」。ちなみにユーミンはあえて言うなら「女性」または「Female」。
異性だけど、B‘zはあの頃からLadyかWomanだったよね。あ、Girlもあるね初期には。また、アン・ルイスの大流行した曲は、「My name is woman」。
ZARDはその点違ったと思うのだ。
「オンナ」を歌っている気がした。男が求める。
それは言い換えれば、「女の子」であることを喜んで積極的に受け入れているような、私のような当時の「女子達」には絶対に行き着くことのできない境地だった。つまり、当時の10代後半から20代前半、高校生から大学生の女の子達には、ZARDの世界は冥王星より遠くにあったのではないかと思う。
だから、これはあくまでも私の意見だが(でも自分だけだと独りよがりになるので、親友のKちゃんにも意見を求めた上でこれを書いているw)、90年代初期以降だと、ZARDを好んで聴いている女性が周りには誰もいなかったように記憶している。だってカラオケで聞かなかったもの。女の子が歌うのを。ZARDを聞いているとしたら全員、男性。
なもんで、実はZARDって、私が大賀くんを好きにならなかったら一生聞くことなく終わっていたかも知れないんだよね。
じゃあこの2年の間、配信ライブを見て、または聞いてどうだったかというと、決して嫌じゃなかったんだよねこれが。泉水ちゃん(私は普段こう呼んでいるのでここからこれで行かせて頂く)の詞の中に段々変化が見られるのが解って、とても興味深かった。有体にいえば、彼女を好きになった。そして胸が裂かれんばかりに悲しくなった。彼女が今いないことが。
彼女の詞は、最初マンツーマンで男を「待っている女」の詞である。「もう少し あと少し…」「雨に濡れて」「世界はきっと未来の中」「こんなそばに居るのに」「Good-bye My Loneliness」等に見られるように、「〜されたい」「〜してほしい」といった、まあ英文法っぽく言えば<受け身>や<依頼の表現>が多いのでも解る。決して能動にならない。その男とは結ばれないと解っているから。つまり、8割5分の確率で不倫である(おかしな言い方かもしれないけど、流行ってたんだよね当時、不倫という風潮が。不倫は文化だって言った俳優もいたし。今考えるとこれ、過去の遺物と捉えれば、確かに文化と言えば文化なのかもね。文化って時々大きく間違ってる時あるしw)。不倫である以上相手と結ばれることはまずもって、ない。でも待ってしまう。そして諦めきれずにずるずると付き合ってしまう。
これって男に取っちゃあ最高のシチュエーションじゃない?
色白で、髪が長くて、黒目が大きくて、あまり笑わなくて、肌なんか毛穴一個もなくて、曲線が滑らかで豊かで、飾らない普段着のスタイル(しかも今風に言えば萌え袖)が好きで、少し高い声で、一生見ていたいくらい綺麗な脚を持った、こんな、信じられない程可愛くて可憐な子が自分を好きだって言って離れられないって言って縋ってくるんだよ?歌の中とはいえ。そらファンも増えるわ。って思う訳よ。
それが、少しずつ変わってくるんだよね。多分あの国民的ソングになっている「負けないで」辺りにその片鱗が見られるんだろうけど。
それがさ。気になって調べたら自分としては相当凄いことが解って。
この「負けないで」という歌が出たのが93年。私としては非常に記憶に残っている時期である。
92年、大学4年だった私は、前年まで全ての英文科の先輩達が貰えていた就職内定に関して、自分の女子の同級生の殆どが貰えていないと知る。男子は貰えているのに。いわゆる就職氷河期の始まりである。これは女子のが先に来た。男子学生に降り掛かってきたのは翌年だ。(ちなみにこの時民間から内定が貰えなかった同級生はこぞって公務員試験に流れ、その年または翌年に合格した。)
93年、院の1年になった私はゼミで教授にある日尋ねた。言っても仕方のないことだが、何故前の年まで貰えていた内定が、私達の時から貰えなくなるのか。みんな頑張って就活したし、真面目に頑張っていたのに。こんなの不公平じゃないか。ああ、若かったなあ私、こんなこと聞くなんて。
でも先生は、本気で聞く私に本気で答えてくれた。
それは違うよ。今でよかったと思った方がいい。この流れは新入社員だけにとどまらない筈だ。時代を見ていると、きっとこれから、企業の中でどんどん辞めさせられてくる人が増えると思う。だから、まだ君達の世代はラッキーなんだよ。
リストラのことを先生は言っていたのだと後から解った。
そんな時に出た「負けないで」。そりゃ沁みるよ。
泉水ちゃん、実は私達の世代にばっちし寄り添ってくれてたのね。
ちょっと感動した。
で、歌詞の話だけど。
例えば、「きっと忘れない」では「変わらないでいて」と相手に向けて歌うけれど、「Today is another day」では「今日が変わる」と変化を恐れなくなる。待つだけだったはずの自分が、「悲しい現実を嘆くより 今何ができるか考えよう 今日が変わる」と一歩踏み出している。あなたのことを諦めきれないけれど、あなたのことばかり考えるのはもうやめたいの、だって時は勝手に進んでいくんだし、とまあ、そんなことを歌っているのかもしれない。とにかく、彼女は変わりたかった。変わることを拒んではいなかった。
また、今まで相手の男しか見てなかった視点が、「Forever You」では、これは私の憶測に過ぎないのだが、あの詞は、ファンに視点を向けているように思える。あのYouは、ファン一人一人、泉水ちゃんを大好きで見守っている人達みんなに向けてではないかと思ったのだ。とすると、どんどん彼女の世界が広がっていっているのが読み取れる。
泉水ちゃんはきっと、不倫の似合うような人じゃなかった。もっと強くてしなやかで、笑顔の多い恋愛の似合う人だったんじゃないかと勝手に考えている。
だから。
だから今の彼女だったら、もっともっと共感出来る詞を書いてくれたんじゃないかと思うのだ。もっとずっと視点の広がった、愛だけに生きるのではなくて、もっと外を見たいな、同じ愛でももっと広い愛を持ちたいな、という、そんな詞を。そしてそれを期待してしまう。
昔どこかで聞いた、大黒摩季姉さんとのエピソードにもあったが、泉水ちゃんは結構お茶目で、女子同士だと色々と楽しい出来事もあったようだ。そういう姿から、今の時代に彼女が何を書いただろうと想像すると、ワクワクするし、それが叶わぬ願いと解るとちょっとだけ悲しくもなる。
透明な声を今後も聞く機会があるだろう。次は是非、蒼い空間に浮かんだステージのあなたを、感じてみたい。
学年だと4つ上になるんですね、あなたは。お姉さんだったんですね。
あなたの歌の中にはまだ、私の知らない、もっと素敵な歌があるのでしょう。それをこれから知っていくのも、悪くない気がします。
月に帰った泉水さん。地球にいる間あなたの音楽を守り続けた騎士(ナイト)達は、今もあなたの「おもかげ」を胸に抱いたまま、私達に夢を見せてくれています。
きっとこの先も、ずっと。