元々カバー曲は好きでよく聞いていた。大体、ジャズなんていうのは、名曲をどんな風に自分流に解釈してアレンジするかにかかっているようなところがあるから、カバーの宝庫だ。
音楽だけではなく、いつも書くけど大好きな海外ドラマアメリカ版シャーロックの「エレメンタリー」や、日本ではこっちのがウケが良かったのだが、イギリスで大ヒットしたドラマ「シャーロック」はどちらも、アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」のシリーズがなければ生まれなかったのであり、ある意味原作のカバーバージョンであると言える。
先日配信ライブが終了したばかりの、当ブログきっての一押しインストバンドSensationもカバー曲を披露してくれることが多いのだが、その先日の配信では、スタンダードナンバーのOn The Sunny Side of The Streetと共に、Charの名曲Smokyをプレイしてくれた。
大賀くんと麻井くんのそれぞれのプレイだけでなく、2人がハモる歌がどれほど良かったか(いやほんとに。お世辞抜きで)を初め、大楠くんと車谷くんのピアノとドラムがどんだけかっこよかったかについては、配信ライブの記事を見て頂くとして、今日はこの名曲の歌詞を訳してみようと思う。
この歌嫌いな人絶対いないよなあという名曲である。一度ライブで聞いたのだが、観客はみんな沸き立っていたし、笑顔だったし、いやあ来て良かったという感じだったのを覚えている。なかなかその状況が叶わない昨今ではあるが、その時の記憶を胸に秘め、再びの日が来るのを心待ちにすることは出来る気がする。
で、Smoky。まずは元の詞を。
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“Smoky” by Char(竹中尚人)
Smoky, you’re not my sky
I really want to say good-bye
Money was all your lies
Wish I knew the reason why
Cause my head is clear
All the time I'm free in my life
Music is like a star
Shining brightly from a far
Magic is like a pole star
Find a way with my guitar
I've got to know my direction
And I know there's no connection with my action
Something flowing in my brain
Feel so good and there's no pain
Find myself in the rain
While my friends keep me sane
And I know it ain't no good
When I'm standing in the sun like a fool
Smoky, you’re not my sky
I really want to say good-bye
Money was all your lies
Wish I knew the reason why
Cause my head is clear
All the time I'm free in my life
<文法的解説>
L4. I wish +仮定法過去「~ならいいのに」
L11. have got to do = have to do
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こんな詞である。
で、まあ最初はまず、あえてド直球の直訳をしてみる。
読んでも意味のよく解らないやつね笑。
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煙よ、お前は俺の空にはない
本当にさよならを言いたい
金はお前の全ての嘘から生まれた
理由が解ればいいのに
俺の頭はスッキリしてるから
いつだって俺は自由 人生の中で
音楽は星のようだ
遠くから光り輝いている
魔法は北極星のようだ
ギターと共に道を探そう
行くべき道をつかまないと
そして俺の行いとは関係ないことも知っている
頭の中に何かが流れている
気分もいいし痛みもない
俺は雨の中にいるけれど
友達が正気に戻してくれる
それじゃダメだってわかってる
馬鹿みたいに太陽の下に突っ立ってるとしたら
煙よ、お前は俺の空にはない
本当にさよならを言いたい
金はお前の全ての嘘から生まれた
理由が解ればいいのに
俺の頭はスッキリしてるから
いつだって俺は自由 人生の中で
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これが入ったアルバムがリリースされたのが76年なので、Smoky=煙ってのは、いわゆるdrugのことなのかなあという気もする。そうなると、ドラッグに燻されているけれど自分でもやめたいと思ってて、ギターを続けて行きたいのだけどなかなかやめられない、でも絶対やめたいと思ってる、みたいな感じに読める。俺の行いとは関係ない、とか、気分もいいし痛みもない、とか、友が正気に戻す、辺りもそんな風に解釈できるしね。
昔の海外のジャズ・ミュージシャンは皆少なからずラリっていた訳で、そんな中でこの世のものとは思えない程美しいメロディや迫力あるリズムが生まれたのも確かだろうけど、結局早逝することが多くて。その儚さ故にカリスマになる、というのもあるんだろうけど、やっぱしそこは、もしもっと長く生きてくれていたら更にどんな名演を残してくれたろうと思うので、惜しいというか悔しいというか、時代が時代だったのだから仕方がないといえばそうなのかもだけどさ。
話を元に戻す。
じゃあこれはやっぱしその、ミュージシャンワナビーの酔狂の曲なのかと言えば、私はそうじゃないんじゃないかと思う。
お気づきの方も多いと思うが、この詞、ほぼ全て美しく韻を踏んでいるのだ。解らなかった方は見直してみてほしい。
韻には頭韻と脚韻の2種類があるが、ここはもちろん脚韻の方。そこで、各行の最後の単語を拾い、実際発音すると、母音が同じ発音であることがわかる。これが韻である。
sky / good-bye
lies / why
clear / free
star / far
star / guitar
direction / connection / action
brain / pain
rain / sane
good / fool
Shakespeareの時代なんかに遡ると、弱強5歩格(iambic pentameter)と言って 、 1行に入る単語の音数まで決まってくるんだけど、流石にそこまではないにしても、実に美しい。ラップだとこういうのが多いし、海外の歌ならさもありなんのパターンだけど、日本のロックでこれはそんなにたくさんはないんじゃないだろうか。しかも英語詞だし。
この美しさ。まあ、ラリって見た夢の美しさとも取れるんだけど、もっとこう、客観的というか、奥が深い感じがするんだよね。
Charさんって、誰とでもセッションできるしみんなとワイワイやってるイメージもあるんだけど、1人のギタリストとして見た時、「孤高の人」に見える。一人、ギター 1本背負って、でも全く気負いなく、飄々としながら歩いているような。ちょっとサムライっぽいなと思ったことがあって。
最初に出会ったのは17の時。 “Merry X’mas Show”というクリスマスの特番で、桑田佳祐さんが中心となってありとあらゆるミュージシャンが集まって、様々な有名な曲をプレイするのをあらかじめPV的に撮ってみんなで見て楽しむという、豪華極まりない番組が2年に渡ってOAされた。私が高 1、高2の時だ。その高2の時のOAにCharさんが出た。
Charさんは、1人でギター、ベース、ドラム、ボーカルを担当して、ローリング・ストーンズの “Jumpin’ Jack Flash”をプレイした。ほら、PV的に撮ってるから全部映像で重ねられるのよ。私が今、配信ライブってのにそんなに抵抗がないのは、こういうのを若い時からたくさん見て慣れているからかもしれない。
これには文字通り痺れた。ストーンズを聞いたのも多分初めてだったし、1人で全部できる人を見たのも初めて。なんてカッコいいんだろう。惚れるってのはああいうことだと思う。
ところがその曲がなんと途中から、米米クラブの歌う「星降る街角」にすり替わるのである(爆笑。これはもう見て貰わないと解らないと思うが、絶妙なタイミングで映像が切り替わり、いきなりカールスモーキー石井(あえて。だって当時はこうだったし)が「ウォンチュー!」と歌い出すというねwww で、最終的にローリングストーンズと星降る街角が合体して、Charさんとテッペイチャン=石井さんが一緒にプレイするっていう。
この番組、全部こんな感じだったのよ。他に大好きだったのが、鈴木マーチンが渋く決めてサンタナのI Feel Goodを演る横で大真面目な顔してアルフィーの桜井さんがド派手な衣装着て(自前だって言ってたw)「函館の人」を小指立てて歌うやつ。
あとね、桑田さんが当時やってたKUWATA BANDと爆風スランプのサンちゃんと河合さんとアルフィーの桜井・坂崎の、総勢6人かな?で、あのジャズの名曲TAKE FIVEをアカペラで披露してくれたやつ。これさあ、こう書くとなんだかえらく格調高い感じがすると思うけど、これの、桑田さんが書いた替え歌の歌詞がさ、もうさ、ここに覚えてる部分を書いたら怒られること請け合いの卑猥さで(大爆笑)。今思い出してもあれをテレビで流して大丈夫だったのかなってwww
当時の高校生でこれを見ていない人はいないんじゃないかってくらい、みんな見ていて、学校でも随分話題になった。
今考えるとあれは、誰でもがテレビで見られた「フェス」だったんだろう。2年間で出演したのはユーミン、高中、清志郎、泉谷、MISATO、氷室、吉川、バービー、鮎川誠、ARB、アン・ルイス、小泉今日子、チェッカーズ、他にもいたはず。ちなみに司会は明石家さんま笑。
これさあ、YouTubeにないかなあ。あったらぜひ見てもらいたい。今の若い方にも。絶対驚くと思うよ。80年代後期の日本の音楽界ってこんなに自由なの?って。
そんな頃からなんとなく、いつもかっこいいなあと思って見ていたCharさんの歌だから、ドラッグの歌でもいいんだけど、もう少し違った解釈ができないかと思った訳である。
まず、smokyという語を「雲」と解釈してみた。you’re not my skyとあるので、雲でもいいんじゃないかと。そうすると全体の解釈が変わってきた。I’ve got to know my directionの辺りから、今まさに、北の星を目印に進もうとする旅人の歌になるなと。pole star=北極星は別名「北辰」、ギターの和名は「六弦琴」。どう?美しいでしょう?
この、 “I've got to know my direction / And I know there's no connection with my action”は悩んだ。道を探さないとと言いつつ、自分の行動とは関係ない、とはどういうことか。まあ、ドラッグについてであれば比較的容易く解釈できるが。そこで、真っ直ぐではない道、というのを思いついた。曲がりくねった道を進むんだけど、どこへ行くべきか探さないとということは、行きたい場所はそのうち解るんだろうと。そこで下の訳になった。
“Find myself in the rain / While my friends keep me sane” 「俺が雨の中にいるのに、友が俺を正気に戻す」というのは、濡れていたい=夢を追いかけていたい、のに、友が俺を現実に戻そうと余計なことをする、とも解せるかなと。太陽の下にいちゃダメだっていうんだからさ。雲、空、太陽と、外を思い起こさせる単語が多いのも、旅人のイメージだよね。
韻の美しさを生かしたくて、韻を踏むだけでなく(結構大変だったw)全体を七五調にしてみた。私はたまに気が向くと短歌を書いたりしているのでこれは楽しかった。
1人で飄々とギター持って進んでいく男をイメージしてみたが、うまく出せていることを祈る。
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Smoky (解釈/訳:コティ)
雲は見上げた空にあり
けれど顔など見たくなし
うまい話にゃ裏がある
訳が知りたい俺がいる
頭はしんと冴え渡り
縛りしものは何もなし
調(しらべ)はまるで夜の星
輝き放つ 永久(とこしえ)に
旅人惹きしあの北辰
俺の背中にゃ六弦琴
標(しるべ)などなし 遠回り
しても目の先 ひとつ道
巡らす思い様々に
あれど快なり 疵もなし
雨に抱かれた夢を見て
浮世に馴れし友を断て
乾いた土に立ち尽くす
ほどの阿呆にゃなれもせず
雲など俺の空になし
顔など見たいヤツもなし
うまい話にゃ裏がある
訳知り顔の俺がいる
頭はしんと冴え渡り
縛りしものは何もなし
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いっや~どうかな~?!
あってるかどうかは解らないけど、割と気に入ってるんだけどなあ~w
言い訳ついでに言わせてもらうと、テキスト論では、作品というのは、作者の手を離れた瞬間から、作品そのものとして鑑賞していいということになっているので、まあ大きな心で許して頂けたら幸いである。
ああ楽しかった。
これを読んだ後で、Sensationの配信ライブに想いを馳せつつ、CharさんのオリジナルのSmokyをお聴き頂ければまた嬉しく思う。古さなど微塵も感じさせないサウンドに痺れる。
ライブ動画があったので貼り付けておきます。2018年ってあったかな。
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