文:見る「フリー演技10000% ーYOSUKE YAMASHITA x YUKIO YOKOYAMA @Blue Note Tokyo (配信にて)」





 既存のものをぶっ壊すというのは、時に非常に気持ちの良いものである。それが、一見するととても壊れそうではないものであればある程。

 この間の、いまだに興奮冷めやらぬSensationの配信ライブでは、Charの “Smoky” を割と忠実にカバーしていたけど、それだってギターソロなんかは大賀くんのアレンジでプレイしてたりする訳だし、好きな曲だからこそ自分なりのアレンジを効かせて演奏するというのは、どのジャンルでも普通だし、かっこいいことなんだと思う。





 フリージャズピアニスト山下洋輔さんが、クラシックピアニスト横山幸雄さんと2人で組んでツインピアノでブルーノート東京で演奏する、しかもそれを配信すると知り、聞いてみたいと思って当日にチケットを買ってみた。


 クラシックへの知識は「クインテット」レベルである。ご存じだろうか、NHKのEテレでOAしていた(今もしているのかな?)5分間子供向け音楽番組。子供番組と侮るなかれ、これが実にレベルの高い演奏で、クラシックの基礎となる曲を次々に聞かせてくれたのだ。学校に通っている頃はクラシックなんて興味なかった方だけど、この番組を見て、宮川彬良さんと4人の音楽家のパペットたち=5人だからクインテット、の、ほのぼのとした(時に多少エグいw)やりとりと音楽を楽しんでいるうちに、ほんの少しだがクラシックへの免疫がついた。


 テレビを通して宮川彬良さんに教えて貰っていたので、やはりクラシックといえば影響を受けた楽器はピアノである。ということで、今回のピアノデュオの演奏も唸るほど堪能させて貰った。


 とはいえ、フリージャズもクラシックも畑がいつもと違うので、若干のアウェー感覚があるため笑、必然的にいつもより語れる言葉は少なくなるが、それでも思ったことだけでも書き記しておきたい。





 2曲目のラヴェルの「ボレロ」、山下さんのぶっ壊し方が凄かった。あのバンバン叩くようなプレイスタイルを昔から知ってはいたけど、久しぶりに見るとまた迫力というかなんというか。


 秩序と無秩序の間を行ったり来たりしてるイメージなんだよね。それも笑いながら。若干狂気めいたところも感じられるんだけど、冷静さも忘れてないから、最後にはちゃんとテーマに戻ってくる。これが山下氏のフリージャズのスタイルらしい。



 4曲目の、ショパンの「ノクターン2番」がとても良かった。ショパンって弾きようによってはあんなに官能的に聞こえるんだなと。色気ってのは出そうと思っても出せないけど、思わぬところで出るもの、というか、感じるものなのかもしれないと、横山さんのピアノを聴いて思った。


 ところがその、官能の果てに行き着こうとする手前で山下さんが、ご本人曰く「伴奏」ではなく「乱入」してくるんだな笑。ユーモラスに、真剣になりすぎない塩梅で合いの手が入るというか。実に絶妙で楽しかった。


 互いにナルシシズムたっぷりに愛の迎合をイタシていた2人(イギリスかフランスの貴族だな。19世紀くらいの)の枕元に、いつの間にか女の「背後霊」が現れて囁く。「ねえあんた、また男を連れ込んだワケ?もういい加減にしないと、そろそろ旦那にバレるわよ」とかなんとか。コミカルな映画のワンシーンのような、なんだかそんな気分だった。





 7曲目の、本編ラストのガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」(この曲大好き)も、画面越しだということを忘れて思わず拍手してしまうくらい圧巻だったのだが、その手前の「プレリュード」が好きだった。山下氏によれば、ジャズというか、非常にブルースっぽい曲ということで。黒人の音楽だったブルース(ということはそこを遡るとゴスペルにいくんだなきっと)がアメリカで「白人の音楽と溶け合って」(山下氏)ジャズになったという。「ジャズのオオモトになっているブルース」(山下氏)の、その両方をガーシュインは書けたらしい。凄いね。


 ブルージーな旋律を2台のピアノが奏でる。洗練された鍵盤の音が次第に下の音程の方で熱を帯びて、上の音に移ってくる。くぅー。痺れるねえ。ピアノの音って、いや、他の楽器もそうだけど、この下の方の音にグッとこう、身体が引き寄せられるというかな。そんな感じだと思うんだよ。たとえどのジャンルの音楽でも。若い頃って、高音でキュンキュン言ってる音が好きな傾向があると思うんだけど、年を重ねてくると、味わいが深くなってくるのが低音なんだよなあやっぱし。




 横山さんがリードで進行役なんだけど、話を振られてマイクも持たずにフツーに喋っちゃう山下御大w いいなあこのナチュラルっぷり。何度もセッションしているみたいだけど、打ち合わせしても、その度毎に演奏が違う、と横山さんが言っていたっけ。スゴいよね、このぶっつけ本番感。プロじゃなきゃできない。当然譜面はあって、時折目をやりながら、或いは要所要所では見ながら弾くんだけど、向かい合わせたピアノ越しに互いの呼吸を静かに、さり気なく見てプレイする姿は、非常にスリリングかつエキサイティングだった。

 大人になったからこそ味わえる、こんなライブもいい。





 アンコールが始まって、聞き覚えのあるメロディが響いてきた。「早春賦」だ。すぐに解った。山下さんの以前のアルバムに入っていると後で知った。


「春は名のみの 風の寒さや」


 どういう訳かこの曲を、母の声とともに覚えている。母は「カラオケは嫌い。お母さんは鼻歌が好き」と言って、軽やかに何か口ずさむのが好きな人だった。いつもこの曲を歌っていたという訳では決してないのだが、何故かこれを聞くと母を思い出す。

 配信ライブ当日は忙しなく動きながら聴いていたのでやり過ごせたのだが、翌日1人で見直していたら堪らなくなり、暫く動けなかった。

 これを聴いていたらきっと、「まあ、山下さんったら面白いわねえ。でも、こんな2人で賑やかに弾くのより、お母さんはもっとおとなしく弾いてる方が好き」とでも言ったような気がする。



春と聞かねば知らでありしを

聞けば急かるる胸の思いを

いかにせよとのこの頃か

いかにせよとのこの頃か




 ちなみに前日、これを聴いていた夫が私に言った。

「卒業式?」

「あ?」

「卒業式の歌でしょ?」

「は?」

「卒業式の」

「…あおげばとうとし?」

「うん。それでしょ?」


ちっがーーーーーーーうだろ!!!!


「ええ?おんなじでしょ?」

「ちょ、ちょっと似てるかもだけど全然違うじゃん!」

「同じだよ。ねえ、どっちがパクったの?」


だから!違うってば!!!


「あれは?ほら、『埴生の宿』。あれはどうだっけ?みんなパクったのかな?」


違うっての!!!!!


どんな耳しとるんじゃ。 

まあ、気持ちはわからんでもないがw









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